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2006年7月20日 (木)

村田清風(三)…撫育方

陰暦 六月廿五日 【土用】

 村田清風を語るためには、萩藩中興の祖毛利重就を知る必要があると思った私は、吉川弘文館の人物叢書の「毛利重就」(小川国治著)を買ってまいりました。なぜなら「撫育方」という世にもユニークな制度を抜きにして近世後期の萩を語ることはできないからです。

 毛利重就は萩藩の支藩長府毛利の家に生まれました。享保期の萩では藩主が相次いで亡くなり、輝元の長系が断絶、長府毛利氏から入った養子も断絶したため、長府毛利氏の支藩である清末毛利氏から、元平が、長府毛利を経て二段飛びで藩主になりました。重就は元平の五男です。長兄の師就が早世したために世継ぎとなったのでした。

 つまり重就は、本来ならば、本藩>長府>清末、と三段目に位置する家の部屋住みとなる所、思いもかけず藩主となることができた幸運な人物です。江戸時代の大名家では時々このようなシンデレラボーイが登場します。上杉治憲(鷹山)や井伊直弼がそうです。養子という制度の妙です。そして、養子の中には世のために私心なく働いた人が多い。光格天皇を入れてもいいかもしれません。

 防長の総石高は当時82万石でしたが、長府・徳山・岩国・清末の四末家に183,000石を分知。諸臣の給地として197,200石を与えていました。残る蔵入高(直轄地の石高)は447,000石になります。そこから荒廃地・寺社領・庄屋への給地を26,000石を除くと421,000石が残ります。それに税率(32.5%)を書けたのが年貢米で136,700石が藩庁が使える収入となります。

 加えて雑収入と馳走米(藩士や町人から強制的に徴収した米、一種の所得税)があり、247,000石の収入がありました。ここから参勤交代の費用、領内の土木工事の費用、江戸での付き合い費、幕府のお手伝い普請の費用、天皇の即位の礼の献上金などを捻出しなければなりませんでした。総支出は282,000石。差し引き35,000石ですが、諸郡新古入替米(古くなった備蓄米の売り払い代金)と借米等借戻米(藩士や町人に貸し与えていた米の利子)があるので最終的な不足高は10,900石でした。

 これに加えて、銀の方は不足高正銀9,566貫目、札銀1,438貫目。

 13万石の収入に対して、年間1万石の赤字を出していました。村田清風が現れた天保期ほどではありませんが、大変な状態です。これに対して重就は主に

    ・検地による増収
    ・製紙業と製塩業の生産強化
    ・干拓事業

で対処します。検地は宝暦十一年(1761)〜十三年(1763)にかけて実施されました。これによって51,000石の増加がありました。今まで自助努力で増やしてきた田畑が課税対象になったわけですので、この検地は藩士にも農民にも非常に評判が悪いものでした。

 そして重就の特質は、この増収を藩の財政には繰り入れずに、「撫育方」という別会計を作って、その財源としたことです。その後撫育方によって数多くの事業が行われます。

    ・干拓
    ・生産強化によって荒廃した製紙業を立て直すためのに楮植林
    ・蝋産業を興すための櫨増産
    ・塩田の開発
    ・石炭の増産
    ・港湾整備
    ・倉庫業(越荷方)

 ただし負の面として、撫育方のお金を使って、重就の隠居屋敷建設、芝居興行も行われました。けれども芝居興行は、新しく作った町の振興策の意味合いもありましたし、屋敷建設で町人は潤いますので、全くの無駄遣いとは言えません。

 撫育方の会計は秘密でしたが、明治四年(1871)に萩藩主毛利元徳が70万両明治政府に献上しており、これは撫育方から出たと見られています。天保期に行われた藩士救済、四白政策、幕末の浦賀防備、京都周旋、銃砲購入の代金も撫育方から出ました。撫育方というユニークな制度が、長州を読み解くためのキーです。

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