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2007年5月15日 (火)

破産する中世人

【沖縄本土復帰記念日】
三月廿九日【葵祭】

 室町時代の話を読んでいると、借金で破産する人が大勢登場します。貴賤も老若も男女も分かたずみんな自己破産。なんだってこうもだらしないのか、中世の日本人は特別浪費家揃いであったのでしょうか。そうではありません、これはかつて貨幣というものがどういう存在であったかを知らないと実態が見えなくなります。

 永正十五年(1518)に、陸奥の国の伊達稙宗が京都に出した使者頤神軒(いしんけん)の経費報告書というのが残っています。頤神軒は伊達家から五三貫目の支度金を受け取り、さらに一〇三貫目を伊達家と関係が深い京都商人から五割の利子で借り入れて任務を果たしました。合計約二〇〇貫。

 金利への礼儀料が三〇貫。残りの一七〇貫が旅費です。

 豊かな伊達家が禁裏へ出した使者からして、ほとんどの経費を借金でまかなっています。

 さてなぜ五割などという高利で銭を借りなければならなかったのか。「言い訳座頭の経済学」で述べたように、現金という物はつい二十年前までは日本でも田舎へ行けば今ほどは流通していませんでした。けれども旅行者は信用がないので現金で支払いをしなければなりません。一貫は約3.6kgありましたから、総経費を持ち歩こうと思ったら720kgをぶら下げなければいけません。これは邪魔であると同時に危険です。

 実際に、頤神軒はわざわざ不利な相場で、支度金を金に変えてから出発しています。経費報告書には、この時の損失もきちんと計上されています。金の方が銭よりも小さくて持ち運びしやすいからでしょう。

 さらに、二〇〇貫を陸奥で調達しようとしても不可能です。そんなに一度に米を買ってくれる人はいません。それに大量に売れば不利な価格になります。つまり、

(一)中世においては、大量の銭を持ち歩くことは不可能だった
(二)物を売って銭を得ることは困難であった(損な取引になる)

といえます。それもこれも手形と銀行という制度がないことに起因します。両方とも日本では江戸時代になってから整備されました。社会が不安定であるので、いつでもどこでも引き出せる資産という物が存在しませんでした。

 そのような社会で、消費をしようとすると、まず借金をして銭を調達しなければならなかったのです。つまり、消費者は現金で物を買いたいと思ったら、高利貸しに出向いて借金をして銭を得なければなりませんでした。まず銭を買う必要があったわけです。

 借金という形でしか現金を調達する方法がなかったのです。

 居住するコミュニティーを超えて取引される商品を買おうと思ったら現金が必要です。衣料・薬・甲冑・お茶・食器、全て交易品です。日常的な小間物を買うにも、まず土倉(倉庫業)や酒屋のような現金が集まっている業者の所へ行って借金をしなければなりません。

 農民にしても、職人にしても、そして税を取る立場にある武家や公家にしても、収入を得られる時期が年に数回しかありません。借金でない現金を得られる機会が年にその数回しかないわけです。けれども、同じ時期に収穫物や生産物を換金すると、当然損な取引になります。消費をしたい時期と、産品が売って現金が得られる時期は必ずしも一致しません。そこでやはり借金をする必要が出てきます。

 しかも、有利な相場で大儲けをしたとしても、家に銭を置いておくことはできません。従って、破産しない程度に借金を貯めておいて、儲けた時にすぐに返し、翌日からまた借金で消費をする、というのが一番合理的な行動となるわけです。

 けれども、このパターンは、ひとたび飢饉や豊作が出来したり、戦乱で流通が滞ったりすると、すぐに破綻します。これがおそらく中世に破産が横行した原因でしょう。

 じゃあ全く蓄財ができないではないかと言われそうですが、このような不安定な社会の中でも蓄財に成功した人はどうするかというと、土地を買うわけです。土地は盗まれません。いや、実際は悪党とかに盗まれるんですが(^^;

 というわけで、資産は土地という形で蓄積されます。やはり現金にはなりません。資産家になっても消費をする時は借金に頼らざるを得ません。中世というのはどこまで行っても借金から逃れられない時代でした。

 でも「日本霊異記」などを読んでいると、このような消費パターンはどうやら律令時代から始まっていたようです。昔は利子がなくて平和だったなどと言うのは嘘っぱちなんですね。むしろ治安が安定していて金融が整備された現代に生きている我々の方が借金からは自由であるのです。

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