年金制度改革(一)
陰暦 六月二日 【出羽三山花祭】
ようやく風邪が治ったと思いきや、週末は台風の襲来で引き籠もりを余儀なくされてまいました。ボーナスで買ったデジタル一眼レフが泣いています。今年の夏風邪では熱が三日ほど続いたので、頭のネジが緩んでしまい、長い文章が書けるようになるまで時間がかかりました。今日からやっと通常運転に復帰です。
年金の話ですが、私の勉強も兼ねて数回に分けて書き進めて参ろうと思います。まず今回は平成十六年の改革がどういうものであったかの説明をします。
年金は加入者から納付された保険料と国庫の補助を収入とし、退職した加入者への給付が支出です。
設立から現在まで納付>給付の状態が続いてきましたので、貯金、乃ち積立金が生じています。「平成17年度 厚生年金保険及び国民年金における年金積立金運用報告書」によると、厚生年金には141.5兆円、国民年金には9.9兆円の積立金があります。この積立金は主に国債や財投債として運用されています。平成14年の総給付額が42兆円ですので約3.6年分に当たります。
現役時代の定収入に対する、年金給付額の割合を「所得代価率」と呼びます。「平成16年 年金制度改正のポイント」(厚生労働省発行PDF版)によると、昭和40年の所得代価率は36%、昭和51年には64%、昭和60年には69%と日本の経済発展を反映して順調に上がりました。(ただし平成12年度には59%まで下がっています)。給付水準は1.0万円から17.6万円まで約18倍に上がりました。
それに対して納付料の上がり方ですが、国民保険料は200〜250円から6,740円と約34倍に、厚生年金の保険料率は5.5%から12.4%に上がりました。納付料の上がり方の方が激しいですが、給付を受ける側からは、現役時代に払った額が少ないのに(日本はまだ貧しかった)多くもらえたので当然満足していましたし、納付側も当時はまだ給料の上がり方の方が大きかったのでその陰に隠れてあまり不平はでませんでした。
しかし、平成に入ってから世界一のスピードで高齢化が始まりました。平成2年に12%であった高齢化率(65歳以上人口割合)は平成22年には22.5%になることが見込まれています(平成15年度 高齢社会白書)。実数も1,489万人から2,874万人とほぼ倍増です。
それに対して現役世代の人口は減少します。昭和50年には20〜64歳が高齢者の7.7倍いたのが、平成8年には3.6倍、平成32年には1.9倍になることが見込まれています。年金制度がこのままでは維持できなくなることは火を見るより明らかです。
年金制度の危機に対する対処方法は以下の6通りがあります。
(1)給付額を下げる
(2a)納付額を上げる
(2b)税金を投入する
(3)積立金を取り崩す
(4)積立金の運用益を飛躍的に上げる
(5)年金を解散する
これらは(5)以外は、どれかを選択したらそれかを選択できなくなる類のものではありませんので、これらの組み合わせによって解決を図らねばなりません。
(5)は国民の同意が得られないので問題外、(4)は不況によってむしろマイナスに転じました(今年になってやっとプラスに回復しました)ので期待できない。ということで平成十六年の改革は(1)〜(3)の組み合わせとなりました。
結論を急ぐと、
(1)
・平成16年で59%あった所得代価率を平成35年(2023)まで最悪で50.2%まで下げる。
・所得代価率は50%を割り込ませない。
・どんなに経済状況が悪化しても、名目伸び率をマイナスにはしない(最悪で据え置きという意味)
(2a)
・平成16年で13.58%であった厚生年金保険料を平成19年(2017)に18.3%まで上げる。
・平成16年に13,300円であった国民年金保険料を16,900円まで上げる。
(2b)
平成21年(2009)までに、国民保険の国庫負担を3分の1から2分の1まで上げる
(3)現在給付額の3.6年分貯まっている積立金を2100年までに少しづつ取り崩していって、1年分まで下げる。
これが要点です。この苦しい選択を避けた場合、当然もっと大変な事態が待ち受けていました。保険料率が30年後に25%を超えるか、受給額が所得代価率50%を割ることが予想されていました。あるいは積立金が底をついたかもしれません。
平成24年(2012)が急激な高齢化のピークで、それ以降は新しく高齢者になる人も減りますし、さすがに長生きの戦前世代もお亡くなりになりますので、年金も一息つけます。次に高齢者が急激に増加するのは第二次ベビーブーマーが退職し始める2035年頃です。団塊の世代が退職する寸前の平成16年がショックの少ない改革で年金を維持する最後のチャンスであったわけです。
私が「政府も社会保険庁も大筋では間違っていない」といったのは、この平成16年の改革のことをいっています。これによって、長めに見積もって今後百年(そんな先のことをいってもあんまり意味がないですが)、短めに見積もって第二次ベビーブーマーの退職が始まる三十年後までは年金制度が維持できるようになりました。与野党を超えた国会議員と官僚の努力の賜物です。
平成16年の、本当の意味での「年金国会」の成功によって、年金の論点は現場の集金と給付及び積立金の運用に移りました。これについては次回以降。
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 法人税を事業所別の支払いにしよう!(2019.07.03)
- 日経が初めて決算ベースで歳出を報道(2018.12.22)
- 世論調査の回答率(3社比較)(2017.08.06)
- 世論調査の回答率(日経新聞+テレビ東京)(2017.08.06)
- 世論調査の回答率(朝日新聞)(2017.08.06)
>私が「政府も社会保険庁も大筋では間違っていない」といったのは、
>この平成16年の改革のことをいっています。
そうですか、でも6/5に年金問題について安部さんが書いたとき、平成16年のことには何も触れていません。
これで読んでいる人にそう受け取ってもらうのは、今回の説明なしでは不可能だと思います。
また、その方針はともかく、仕事振りには問題があるのは否定できないですよね。
「大筋」といって人がどういう風に受け取るか、少し考えてみてください。
>短めに見積もって第二次ベビーブーマーの退職が始まる
>三十年後までは年金制度が維持できるようになりました。
10年たつと、世の中って予想外に変わる可能性が高いので30年は大丈夫というのは、同意はできませんけど、続き楽しみにしてますよ。
投稿: 輔住 | 2007年7月15日 (日) 18時02分