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2007年12月22日 (土)

金の役割

陰暦 十一月十三日 【冬至】

 過去に金貨が果たしてきた役割は何だったかの考察の続き。この前は、銅銭でもらった褒美というものはいずれ劣化するので有難味が薄れるという話をしました。かといって土地には限りがあります。

 昔の世の中に今で言う年金みたいなものがなかったかというと、ちゃんとありました。前にも言ったように、欧州では教会が「養老年金への融資」を隠れ蓑にして貸金業を営んでいました。日本でも「一代限り恩賞」というものがありまして、これは今で言う拠出型の年金に近い。

 「雑兵達の戦場」という本がありまして、中世の足軽や中間といった"アルバイト武士"のことを調べた本です。平安後期から戦国時代にかけて、日本には相当数の、雇われてなんでもやる賃金労働者がいました。農繁期には農家で働き、戦いがあれば雑兵となり、戦場では戦いそっちのけで略奪や人攫いをやるような人達です。農家の次男坊三男坊、あるいは下級武士のそれや、戦争に負けて土地を失った武士団などが供給源でした。

 この著者によると、太閤さんや徳川幕府は、天下統一によって職にあぶれた彼等を(江戸時代に入ってからは浪人と呼ばれるようになる)いかに管理するかに苦労させられていたそうです。朝鮮征伐や、京大阪の復興、お手伝い普請、参勤交代に将軍のお成りの接待などは、かなり明確に豊臣政権や徳川幕府が「浪人の雇用政策」という目的をもって実施していたことを解明しています。

 もし、これらの公共事業がなかった場合、民衆から集められた税金は藩に蓄積されます。藩は、かなりの数いた浪人を雇用し、やがて政権転覆を企むこととなります。山っ気のある農民も、土地を手放して武士になることを望ので、いつまでたっても世の中が安定しません。十七世紀のドイツや今のアラブはこんな感じですね。

 ところが、幕府が強制的に公共事業をやらせたことによって、第二次産業や第三次産業の雇用が生まれ、浪人を吸収することができました。やがて藩の蔵は払拭し、大商人から金を借りてまで公共事業をしなければならない羽目に陥りますが、これも大商人に金が集中しすぎるのを抑制し、再分配する政策になっていたと思います。何度も言うように、たまたまそういう効果があったのではなく、豊臣政権と幕府はこのような浪人の雇用政策が社会安定の要であることを認識していました。

 自治体(藩)に借金をさせることで、強制的に富を取り上げることなくして再分配をなしていたわけで徳川幕府の政策はなかなか巧妙です。寛永までは藩を取りつぶし、元禄までは大商人を取りつぶすことで強制的に再分配していましたが、それでは世の中がかえって不安定化することを学んだのでしょう。

 欧州の場合、国や自治体がそのような再分配機能を持つことなく、政府と大商人に資本の蓄積がつづきました。お陰で日本よりも二百年早く強力な兵隊を持ち、植民地を得ることができたわけですが、それが良いことだとは私は思わないんですよね。しかしあまりに貧富の差が開きすぎたために社会福祉や公共事業による再分配がようやく19世紀に入ってできたわけです。

 まだ頭の中がまとまっていないので話は飛びますが、金(もしくは銀)貨幣と併用でない銅貨のみの貨幣制度は安定しないのではないかと思っています。ローマやモンゴルが商業で栄えたのは大量の金銀貨幣の裏付けがあったからですし、日本でも古代の貨幣制度が失敗して、徳川時代がうまくいったのは小判のあるなしが決め手だったのではなかろうかと思うのです。

 銅貨だけだと、政府に鐚銭を回収して改鋳する権力がなくなると貨幣もろとも国が滅んでしまいます。金貨があれば、政府の力がかなり弱っても、昔作った金貨でしばらく持ちそうな気がします。実際、中世にはギリシャと小アジア西部だけになったビザンツが発行する金貨が欧州で基軸通貨として流通していました。ペロポンネソスやトラキアに鉱山があったからです。

 金貨の良いところは、土地と違って、使わないと役に立たないところ。土地は使っても減らないので分配がしにくいが、金貨は使うことで分配される。特に成り上がり者への褒美にぴったり。土地を与えると貴族になってしまうけれど、金貨をあげることで一代限りの名誉貴族にするだけで済む。貴族にしてしまうと色々と権利を与えないといけないし、子孫が生産者から抜けるので社会的には良くない。だから金貨をあげて「歳を取って働けなくなってからこれで贅沢をしな」とするのが世のため人のためになる。

 金貨のようななかなか劣化しない上に流動性の高い資産が世の中にあるというだけで、かな
り社会の安定性が高まるのではなかろうかと私は思うのです。

追記

 ところで藩の借金で気がついたのですが、あまりにも国債を減らしすぎると、大企業に金が集中しすぎるんですよね。法人税は減らす方向にあるし。利子を払い続ける当てがあるのなら、国債も再分配ととしては立派な政策なのかもしれません。

 それと、米国の経済人が日本や欧州に医療や年金の自由化を求めるのは、米国のように企業の負担を重くして日本と欧州の企業の競争力を弱めたいからです。米国の企業は社会福祉を押しつけられているので、職員のことを考える真面目な企業ほど、収益を減らして潰れて、職員を牛馬のようにしか考えない企業ほど栄える倒錯した状況にあります。

 企業の収益を増やすつもりで社会福祉を削ったら、それを企業が負担させられて、とんだ藪蛇になるでしょうから、日本の経済人も口車に乗せられないように気をつけた方が良いでしょうね。

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