« セルアニメの良さ | トップページ | 「味楽るミミカ」ヴァレンタイン編(その一) »

2008年2月14日 (木)

鄭の悲哀

【聖バレンタインズデー】
陰暦 一月八日

 春秋の初め頃の主役は鄭です。魯の陰公、桓公の代には鄭は諸侯の糾合して周王室に無礼をはたらいた国を罰したり、諸侯の内紛を仲裁したりしています。

 それが、斉の桓公が出たあたりから精彩を欠くようになり、晋が覇権が確立するようになると、猫の目のようにくるくると庇護者を変える日和見で哀れな小国に成り下がってしまいます。この原因はなんであろうか、ちょっと考えてみました。

 鄭は第十代厲王のときに王家から分家してできた新しい国です。始め、虢公と交代で執政(室町幕府の管領のような役職)を勤めていました。春秋が始ま る紀元前八世紀の終わり頃から、北部からは狄が、西部からは戎が、南部からは楚といった異民族が侵入するようになります。周王朝はこれに対して有効な手を 打てませんでした。

 始め、東方の大諸侯である斉の桓公が覇者となって、戎を撃退しました。ただし斉の覇業は桓公と管仲の個人的な能力に頼るところ大で あったらしく、二人の死とともに斉の覇権は失われてしまいます。もともと斉は西部と南部の異民族からは遠く離れていましたので、身を削ってまで中原を守ろ うという意欲に乏しかったのかもしれません。

 次に絶えず戎や秦と戦い続けていた西方の晋の文公重耳が覇者となります。晋の覇権はその後百年以上続きます。覇者として数えられてい るのは文公だけですが、文公の後も中原の諸侯は晋の指揮の下でまとまります。晋は士氏(范氏)、趙氏、荀氏、魏氏、欒氏といった大貴族の集団指導体制が続 きました。

 しばらく春秋から鄭の記事が出てこなくなるのですが、魯の襄公(紀元前六世紀前半)の時代になってから急に鄭の記事が増えます。この 時の鄭は南から楚が攻めてくれば楚と和平を結び、北から晋が攻めてくれば晋と和平を結ぶといった二股外交を毎年のように繰り返すようになります。

 当時の鄭の貴族に言わせると、楚も晋もどちらも鄭を守るだけの武力を置いてくれないので、国民を守るためにはその都度同盟相手を変えるしかないのだそうです。二大強国から等距離だったことが鄭に禍したのでした。

 けれども、地理的な条件以外にも鄭が弱体化した原因らしいものを見て取ることができます。鄭の記事には公子○○、公孫○○という人物が 多数登場します。これは、鄭伯の子孫達です。どうやら鄭では公族の政治的発言力が強く、君主の下で一つにまとまろうという意欲が不足していたらしい。これ が第一。

 第二に、鄭は学問偏重で武を軽んじる風があったらしいことがあげられます。鄭の衆議の場面が春秋によく出てくるのですが、公子達は様 々なレトリックや古典からの引用を駆使して自説を主張します。鄭は学問が盛んで、貴族達の知的水準も高かったらしいことが見て取れます。けれども、公子達 の論法には誠意がありません。また、鄭の記事には軍人が登場しません。鄭で武が軽んじられていたと推測できます。

 第三に、これは第一と関連があるのですが、鄭の公子達は周辺の諸侯の力を借りて公になろうとして、周辺国の介入を呼び込みます。晋の ような譜代の大貴族がいなかったお陰で、キングメーカーがいなかったために、公子の間で誰が即位するべきかの優先順位をつけることができなかったらしい。公子が「誰だってなろ うと思えば公になれるんだ」と豪語する場面があります。すぐに衆議を開くところといい、鄭では悪平等がはびこっていたようです。普通、中小の諸侯の場合、 大国の公女を母に持つ公子の優先順位が高くなりますが、鄭は気位が高かったので、これが働かなかったのかもしれません。

 この後、鄭は子産(彼も公孫)が支那で初めて成文法を作り、政治はようやく安定します。議論好きの貴族達を従わせるためには、法が必 要だと思い至ったのでしょう。ここら辺はギリシャやローマの歴史と似ています。その後も鄭は大国の間で細々と命脈を保ち、戦国時代に入ってから韓に滅ぼさ れました。

« セルアニメの良さ | トップページ | 「味楽るミミカ」ヴァレンタイン編(その一) »

歴史:権門勢家」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173723/40124253

この記事へのトラックバック一覧です: 鄭の悲哀:

« セルアニメの良さ | トップページ | 「味楽るミミカ」ヴァレンタイン編(その一) »

2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ