平安鎌倉私家集(三)・・・和泉式部集・上
陰暦 十月朔日
和泉式部の父は、越前守大江雅致、母は越中守平保衡の女といわれる。紫式部の父も越前守なのでこの二人はだいたい同じような受領層の家柄の出身。ただし大江雅致は太皇太后宮(冷泉天皇皇后昌子内親王)の大進で、母も昌子内親王に女房として出仕していたらしく、よって式部も幼少頃から昌子の宮で過ごしたと思われる。
恋に生きた女性で、始め同じ宮の権大進を兼ねていた和泉守橘道貞と結婚。道貞との間に生まれた長子が小式部内侍らしい。やがて夫との間が疎遠になり、冷泉院の第三皇子弾正宮為尊親王と恋愛関係を結ぶ。
しかし宮は長保四年(1002)に二十六歳の若さで薨去した。一周忌も近づく初夏の頃、故弾正宮の弟である帥宮敦道親王と恋愛関係になる。立場上なかなか表だっては逢うことがかなわないその寂しさを歌った歌を多く残している。
このようにかなり派手な恋愛遍歴を重ねた女性です。帥宮も二十七歳で薨去してしまい、宮との恋愛は彼女に最終的な幸福はもたらしませんでした。その頃に数多くの悲傷歌を詠んでいます。
疎遠となった最初の夫とは、別れてからもたまに手紙のやりとりをしていたらしいことが「和泉式部歌集」から窺えます。現代でも別れた夫婦が友人として付き合いを続ける例がありますが、そのような関係だったのかもしれません。
春 梅が香におどろかれつゝ春の世のやみこそ人はあくがらしけれ
- どこからとなく漂ってくる梅の香りに、幾度もハッとさせられながら、花のありかを探すけれど、春の世の闇は、梅を隠して人をいたづらに憧れさせるものである。
夏 櫻色にそめし袂をぬぎかへて山ほとゝぎす今朝よりぞまつ
- 散った桜の花の形見として桜色に染めた袂を衣替えの日(立夏)に脱ぎ替えて、今朝からはホトトギスの声を楽しみにしよう
秋 鳴く虫のひとつ声にもきこえぬは心こころにものやかなしき
- 鳴く虫の声が様々に違って聞こえるのは、それぞれの虫が別な悲しみの心を持って泣くからであろうか
冬 待つ人の今も来たらばいかゞせん踏みまく惜しき庭の雪かな
- あの方が今来るかもしれない、お出でになったらきれいに積もった雪をお見せしたいと思うと、庭に足を踏み入れるのが惜しい気持ちになる
恋 黒髪のみだれもしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき
- 黒髪の乱れるのもかまわず思い乱れて泣き臥すと、そんな時、すぐに髪を掻きなでてくれたあの人のことが恋しくてならない
恋 音(ね)を泣けば袖は朽ちてもうせぬめり猶うき事ぞ尽きせざりける
- 激しく泣く涙で袖は腐ってなくなってしまう状態なのに、なを辛い事というものは袖のようには決してなくならないものであることだ
恋 君こふる心は千々にくだくともひとつもうせぬ物にぞありける
- あなたを恋しく思う私の心は幾千に砕けても、そのかけら一つの愛の心だってなくなりはしないのです
恋 かく恋ひばたへで死ぬべしよそにみし人こそをのが命なりけれ
- こんなに恋しくては堪えきれずに死んでしまうだろう、昔は他人と見ていた人が今は私の命なのである
いつの時代も女性の恋への思いは強いのだなと感じさせられます。少女漫画の主人公みたいですね。レディースコミックの主人公みたいな内容の歌もありますけれど、刺激が強いので割愛します(笑)
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