« ご来店ありがとうございました | トップページ | テロへの憤りとメディアに猛省を求む »

2008年11月18日 (火)

スパイ戦争

陰暦 十月廿一日

 「ヒトラーが恐れた男」レオポルド・トレッペル著、堀内一郎訳 三笠書房 を読んでいます。1939年から42年にかけてドイツとその占領地でスパイ網「赤いオーケストラ」を組織して枢軸国の国家機密を次々とソ連にリークしてドイツを震撼させたスパイの自伝です。

 十年くらい前に教育テレビが、フランスのテレビ局が作成したドイツとソ連が第一次世界大戦前から第二次世界大戦にかけてヨーロッパ全土を舞台にして仕掛けたスパイ戦争のドキュメンタリーを放送したことがありました。

 それ以来ずっとこの時代の国家社会主義者と国際共産主義者の情報戦を扱った日本語の書物がないだろうかと探していたのですが、全然見つかりませんでした。どうも歴史研究ではまだ日本の研究者は扱っていない分野らしい。

 スパイ関係のノンフィクションで追えばいいのではないかと気がついたのがつい半月くらい前。それで古本屋で見つけました。

 これは1930年代後半から第二次世界大戦にかけてのスパイ合戦を描いています。ラッパロ条約については「国防軍とヒットラー」(みすず書房)を持っていますので、後は1918年のベルリン革命の顛末と、1920年代から30年代にかけて東欧で繰り広げられたドイツとソ連の東欧諸国傀儡化工作の本がみつかればだいたいスパイ戦争流れを追うことができるようになります。

 それにしても参謀本部の記録係までソ連のスパイだったとは、共産主義者の情報収集力は恐ろしい。またドイツ人が緻密な割りには、開けっぴろげで酒を飲めばすぐに秘密をばらし、気丈なスパイにはすぐに感動して待遇を良くしてしまうなど、思っていたよりもお人好しなことに驚きました。

 とはいえスパイ合戦で先手を取っていたのはナチスの方で、ナチスはスターリンが党内基盤の弱さに不安を抱いていることを逆手にとって、優秀な官僚や軍人に狙いを定めて、彼等はナチスの協力者であるという偽情報を流してソ連を弱体化させます。これがバルバロッサ作戦の緒戦に赤軍がドイツに有効な反撃を与えられず国土の中枢を焦土にしてしまう悲劇につながります。あるいは第二次世界大戦後にソ連が発展を止めてしまった一因かもしれません。

 スターリンの弾圧をなんとか生き延びたトレッペルは枢軸国占領地で広範なスパイ網を張り巡らし、ナチスドイツ兵器の生産動向や作戦の詳細までソ連に流しました。これほどまでに共産スパイへの協力者が多かったのは、ソ連と異なり、ドイツは体制内の非協力的な分子の洗い出しを徹底しなかったため、ナチスに反感を持つ人物がドイツの内部に数多く残っていたからです。

 スターリンの弾圧は徹底していて、反スターリン的な行動を取った組織のメンバーは全員罰しました。連帯責任です。あるいはなんの脈絡もなく人を捕まえて処刑しました。理屈なく非合理に罰を与えられることが生物には一番こたえます。結果として、ソ連は国家の柔軟性を失ったものの、国土の中枢をドイツ軍に蹂躙されても裏切り者は出しませんでした。

 そもそもスターリンが優秀な人材を処刑していなければバルバロッサ作戦自体なかったのではないかとも言えるので、スターリンを褒める理由にはならないかもしれません。しかしロマノフ王朝の歴史はクーデターの連続であり、恐怖で締め付けない限りロシアというのはまとめることができないのでしょう。

 赤いオーケストラの活動の白眉はスターリングラード攻防戦で、スパイによってドイツ軍の作戦を知った赤軍は、わざとドイツ軍を市内に引き入れた上で、スターリングラードを包囲し、市街と外部から二重に攻撃してドイツ軍に多大な損害を与えました。

 欧州のスパイ戦争の凄まじさと比べると、北朝鮮や中国共産党が日本でやっているであろう情報戦がまだ可愛く見えてきます。ただ、どうもスパイというのは変な職人意識を持っていて、下手にガードを堅くすると、返って意欲をかき立ててしまうようなので、今の日本のように開けっぴろげにしてスパイのやる気を削ぐのも一つの作戦かもしれません(笑)

« ご来店ありがとうございました | トップページ | テロへの憤りとメディアに猛省を求む »

歴史:近代」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173723/43155608

この記事へのトラックバック一覧です: スパイ戦争:

« ご来店ありがとうございました | トップページ | テロへの憤りとメディアに猛省を求む »

2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
無料ブログはココログ