ある取締役の挫折
陰暦 五月二十四日 【下弦】
昔々あるところに社長と仲の良い取締役がおりました。その取締役は気位が高く、今の会社があるのは自分のお陰だと自負していました。ある日社長はその取締役に大きな案件をまかせました。取締役は喜び勇んで仕事に取りかかりました。
ところが、その案件は難しい利害関係が絡んでいて、取締役は結局仕事に失敗してしまいます。今まで挫折らしい挫折をしたことがなかった取締役にとっては大変な衝撃でした。そんな彼に社長や役員が声をかけました。
社長「残念だったね、でもこれは会社の存亡をかけてでも通さなければならない話でもないのだから、この経験を活かして、これからも社のために頑張ってくれたまえ。」
役員「まあ、このくらいのことはよくあることさ、気にするなよ」
取締役「う、うるさい!」
社長・役員「???」
取締役「仕事に失敗したのは、俺が無能だからじゃない!お前等が俺を助けてくれなかったからだ」
社長「でもきみはずっと太鼓判を押して全然私に相談もしなかったではないか。」
取締役「あ・悪と戦うためには弱味を見せるわけにはいかなかったからだ、友達のくせにそんなことも分からないのか!」
社長「それに先方もちょっとやりすぎたと思って詫びを入れるとまで言ってくれているじゃないか、それでは満足できないのか?」
取締役「や、やめろ、俺を哀れむような目で見るのは!!こんな会社俺が本気になれば潰す事なんてわけないんだ!」
れからというもの取締役は会社についてあることないこと吹聴して評判を落としました。社長は仕方がなく、取締役を解雇しました。お陰で会社は大打撃を受けましたが、会社を裏切った取締役を雇ってくれるところはもうどこにもありませんでしたとさ。
この社長のように他人の人格を尊重して、相手の受け持ちはまかせる度量を持った人ほど、強すぎる自尊心を持った人間を孤立させてしまうことは往々にしてあるんですよね。自尊心が強い人というのは、実は手取り足取り助けてもらいたい(けど手柄は独り占めしたい)というまあかなり勝手な願望を持っていて周りは大変です。社長さんには災難でしたねと言うしかない。真相が明らかになれば会社の評判も持ち直すでしょう。それよりも、冷静さを失った人間に権力を与えておくことの方が、最終的な損害は大きいです。社長の判断は間違っていないでしょう。
あとこの取締役を邪魔した前社長、攻めていたときには先が読めていたけれど、実績を守りたい、子供に事業を継がせたい、と言う守りの態勢に入ってからというもの読みがことごとく裏目に出ています。たぶんもうあまり表には出てこない方がよろしいのではないかと思います。
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