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2010年2月 1日 (月)

日銀と銀行(二)

陰暦 十二月十八日

 じゃあなんで日銀は率先して景気を腰折れさせるようなことをしているのでしょうか。もし日銀が国債利払い費の増加を心配しているのだとすれば、それこそ ゼロ金利政策を継続すれば良かったはずなのです。ここ十年間の政策金利と10年国債利回りのグラフをみるとhttp: //www.iecon.jp/loan/loan_kinri.html国債金利が1〜2%の間に維持されていることがわかります。利払い費を減らすた めならば1%未満を目指しても良かったはずです。2%以上にならなかったのは国債利払い費の拡大を恐れてだったのかもしれませんが、1%を切らなかったの は別の理由があるのでしょう。

 つまり日銀には国債金利を1%未満にしたくない理由があったのではないかと私は思うのです。以前私は「だからデフレはやめられない」というエントリーで預金金利がほぼ無に等しい状況においては、銀行は国債を保有しているだけで収益を上げることができると指摘しました。しかしこの状況は国民全体の福利を考えると少しおかしいのです。銀行は企業や個人に金を貸すことでも儲けることができるはずですから、国債だけで十分に儲けが出るという状況は銀行に気を遣いすぎです。国債でも利益は上がるけれども、企業や個人向けの貸し出しから上がる利子をプラスしてやっと銀行の経営が成り立つ、という状態が銀行の正しい姿です。

 ゼロ金利にプラスして、国債の買い入れでも手形の買い入れでも何でもいいですので市場に資金をジャブジャブ供給すれば国債の金利は1%を切るでしょう。http://www31.ocn.ne.jp/~j_saijo/rizaig.htmけれども長期プライムレートが1%を切ったのは2003年だけです。2003年の状態を維持すれば、企業も設備投資をしやすかったですし、個人も住宅ローンを組んで家を建てやすかったでしょう。しかし日銀はすぐにそれを1%以上に戻してしまいました。

 穿った見方をします。国債の金利が1.5%付近にあれば銀行は国債を買うだけで経営が成り立ちます。とっても楽です。1%を切ると銀行が国債を買うだけでは経営が成り立たなくなります。そのかわり企業や個人がお金を借りてくれるようになりますが、そのためには与信審査をしなければなりませんし、同業他社との競争も出てきます。面倒です。企業や個人への貸し出し競争となると、金利の引き下げ競争になるかもしれません。それは嫌です。

 日本経済全体のことを考えれば日銀が貸出金利1%未満の状態を目指すことが望ましいけれど、銀行にとってはそれは望ましいことではありません。2%を超えると大不況になってしまいますので銀行もそこまでは望みません。つまりどういうことかというと、日銀の目指すところは「日本経済が潰れない範囲内で、銀行に国債利払い費という利益を最大限誘導すること」にあるのではないでしょうか。

 日銀の方針を決める審議委員(企業で言えば取締役に当たります)は日銀から出世してきた人たちと、大蔵省の出身者と、学者と、金融業の関係者(主に銀行出身者)から成り立っています。また日銀職員や大蔵省の官僚は銀行の経営者として迎えられることが多いですし、学者も元銀行員だったという人は少なくありません。日銀の審議委員の中には、お金を借りる側の代表がほとんどはいっていなくて、日銀には銀行の利益が反映されやすい構造になっています。

 国債利払い費は市場によって決められることで、政府にはタッチできないことと言うことになっています。政府や国会は利払い費をいじくることはできません。インフレ率が2%以上の正常な経済では確かにそうなのですが、デフレが10年以上も続いている日本では、国債金利をどうするかは日銀が決定することができます。日銀がゼロ金利政策を続け、ジャブジャブ市場に資金を供給すれば、国債金利が1%を切り、国債利払い費を今よりも減らすことが可能なのです。しかもそうなれば企業や個人もお金を借りやすくなりますので経済が活性化します。

 しかしそれをしない。日銀は国民全体の利益よりも、銀行が楽をすることを目指しているとみなされても仕方がないのではないでしょうか。政策金利によって一番利益を得る人たちが日銀の意思決定権を握っているのです。しかも彼等は国会の審査なしに自らの業界に利益を誘導することが可能なのです。建設業者とか医療関係者がマスコミや政党から叩かれまくっているのと比べてえらい依怙贔屓です。

 この中央銀行と銀行業界の関係が、国の政策の足枷になっているのではないでしょうか。国債の金利が0.1%動けば、数千億のレベルで銀行に入ってくるお金が変わってしまいます。公共事業費とか科学技術振興どころの話ではないのです。

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コメント

はじめまして。『デフレと円高の何が「悪」か』の著者の上念と申します。大変興味深いエントリーですね。業界全体の利益誘導の道具に金融政策が使われているとしたらこれは本当にトンデモない話だと思います。
次回作に向けて、この話は参考にさせていただきます。
今後ともよろしくお願いします。

上念

投稿: smith79600 | 2010年2月 1日 (月) 12時45分

上念さん初めまして。

このエントリーは経済指標を私なりに観察して出した結論ですが、私は正式な経済学の教育を受けていませんので参考程度にしてください。

2003年に国債金利は一度1%を切っているわけですので、やりようによってはこの状態の維持は可能だったのではないかと私は考えています。

銀行の最大の利益源が国債からの金利である状況で、国債の金利に一番強い影響を与えうる日銀の意思決定がやはり銀行業界の関係者によって握られている状況について、もうちょっと社会全体の注意が払われてもいいのではないかと思います。

投稿: べっちゃん | 2010年2月 1日 (月) 18時29分

興味深い内容だったので、朝にこの記事のURLをtwitterに流してみました。すると上念さんをはじめ、いろんな方が取り上げてくれました。
最近、金融業界の人に反リフレが多い理由は何なのか考えているのですが、この話も理由の一つとして考えられそうですね。

投稿: Baatarism | 2010年2月 1日 (月) 23時23分

Baatarismさん、記事の御紹介ありがとうございます。

「長期プライムレート」という言葉は90年代くらいまでは新聞やテレビでは頻繁に出てきました。しかし十年くらい前から貸出金利の話はパタリとメディアから消えてしまいました。

貸出金利の話がこの十年くらいニュースの世界から消えてしまっているんです。どうもおかしい。

徳政令だなんてセンセーショナルな言葉で銀行を攻撃したつもりになっている亀井金融大臣ですが、あんな実効性のない法律では銀行は痛くも痒くもないでしょう。

もしかしたら銀行への当たりを弱めるため、意味がないとわかっていてやっているんじゃないでしょうかね。亀井大臣は利率については一度も触れていないでしょう?金融にど素人みたいな顔をしつつも、なにが担当業界の死活線なのかあの人わかっていますよ。

投稿: べっちゃん | 2010年2月 2日 (火) 07時40分

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日銀が刷ったマネーを政府が直接国民に分配する仕組みを構築すべきですね。今までのように銀行を経由して国民に配分してもご覧の通り効果は薄い。 [続きを読む]

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