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2010年9月 7日 (火)

日本の所有権の発達(九)・・・大名貸し

陰暦 七月二十九日

 手元の資料で数値をチェックしてみます。 「一目でわかる江戸時代」(小学館)によりますと、慶長三年(1598)の全国の石高が1,851万石。正保 二年(1645)が2,455万石。50年間で30%増加。その後は気候の寒冷化によって停滞し、2,500万石前後を推移。天保に再び成長して 3,000万石を突破します。

 江戸開府の頃の総人口は1,200〜1,800万人の間。初めて全国規模の人口調査が行われた享保六年(1721)の町方の人口は2,600万人。その後は2,400〜2,600万人の間を推移しています。このほかに武士が300万人くらいいるので総人口は約3千万人です。

 享保五年(1730)の幕府の歳入は約80万両で、そのうち64%が年貢、運上金(酒や油など特定商品の売買にかけられた税金、所得税よりは消費税に近い)が7%、御用金(半強制的な借り上げ)が4%、貨幣改鋳益が1.3%となっています。

 百年後の天保14年(1843)になると、歳入が154万両と2倍になり、年貢が39%と比率半減、御用金が10%、貨幣改鋳益が26%と拡大しています。

 すなわち江戸時代の中期の100年間で年貢収入は51万両から60万両にしか増えず。そのかわりに御用金が3万両から15万両に、貨幣改鋳益が1万両から40万両に増えています。(※享保時代はデフレ政策がとられていたので貨幣改鋳益が小さい)

 幕藩体制は商人から税を取り立てにくいようにできていました。ただし徳川幕府は律令国家や室町幕府などと比べて中央政府として安定していましたので、中世にはなかった収入がありました。

 まず第一が貨幣改鋳益で、これは金貨・銀貨・銭の減価と額面価格との差額です。室町時代まで日本は支那の銅銭を使っていたのですが、江戸時代になって世の中が安定し、鉱山の生産量も増加したので、幕府は安定的に通貨を発行できるようになり、貨幣を自給自足できるようになりました。

 これは実を言うと世界的には珍しいことで、当時の欧州は新大陸から輸入した銀に頼っていました。銀貨を大量に発行できたのは新大陸を支配していたスペインだけで英国やフランスなどはスペインに毛織物や穀物を売って貨幣を買わなければなりませんでした。清にも鉱山はなかったですが、その頃の支那は技術力が世界一でしたので、絹織物やお茶などを欧州や日本に売って貴金属を輸入していました。これに対して日本は400年間貨幣を自分で供給することができた稀有な国なのです。世界の大多数の国では貨幣は苦労しないと手に入れられない物でした。

 原価を下げれば下げるほど貨幣改鋳益は増えるので、享保時代以降は小判の金含有率は下がり続けました。享保小判は86%、20年後の元文小判は65%まで下がっています。含有量と同時に、小判の質量自体も小さくなっています。享保小判は18gでしたが元文小判は13gに下がっています。

 もちろん粗悪な小判を作れば最初のうちは幕府の目が光っているので額面価値で流通しますが、やがて価値が下がります。即ちインフレです。しかし享保から100年後に作られた天保小判は金の含有量が半分になっているにもかかわらず、一応一両として流通していますので、江戸時代の二百年間を通じて、徐々に日本における貨幣は貴金属の価値による物から、中央政府の信用(権威)による物へと変化していったこともわかります。

 しかし貨幣を造ることができたのは幕府だけでした。大名が何に頼ったかというとズバリ借金です。

 人物叢書(吉川弘文館)の「毛利重就」によると米と銀が別会計なのでややこしいのですが米に直して、宝暦四年(1754)の収入が17万石、歳出が28万石、当時の平均的な米相場で計算すると10万石の不足です。これを借金で埋めていました。萩藩の実高は82万石ですので財政赤字GDPの12%です。その赤字は金融業者からの借金で穴埋めされました。

 「上杉鷹山」によると米沢藩の収入4万石に対して、財政赤字が2.5万両、約2.5万石の赤字です。これも借金で穴埋めするしかありませんでした。米沢藩は15万石ですのでやはりGDPの13%の財政赤字です。

 「島津重豪」によるとこの時期の薩摩藩は年間約2万両のペースで借金を増やしています。藩の規模からすると萩と米沢よりましですが、薩摩藩はこの後放漫経営と借金の繰り延べの失敗により借金を5倍に増やしてしまいます。

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