藤子アニメのヒロインたち(四)・・・はだしのシンデレラ
「チンプイ」は藤子・F・不二雄先生の遺作ともいえる作品で、藤子不二雄ランドに掲載されていました。藤子不二雄ランドは中央公論社が藤子先生の全集を 単行本で毎週出していたシリーズで、巻末に新作マンガが載っていました。F先生の作品の時は「チンプイ」が、A先生の作品の時には「ウルトラB」が掲載さ れていました。ご自身の全集に掲載されていたわけですので、自由に作ることができたのではないかと思います。
チンプイの設定はかなり唐突で、お転婆でおっちょこちょいの小学生の女の子の春日エリちゃんが、超科学文明を持つマール星の王子様であるルルノフ殿下のお妃として選ばれるところから始まります。もちろんそんなどこの馬の骨とも分からぬ男からの急な申し出をエリちゃんは断るわけで、エリちゃんを説得するためにチンプイ(ミッ○ーマ○スのようなシルエットの頭で、コアラのような体をした可愛い謎生物)がエリちゃんと一緒に住むことになります。
エリちゃんは同級生の内木君にぞっこんです。内木君は名前の通り内気な少年です。頭はいいです。それといざというときには勇敢なところがあります。「エスパー魔美」の高畑君を少し引っ込み思案にしたような男の子です。
チンプイは子供なのですが度胸があるというか達観したようなところがありまして、エリちゃん本人がその気にならないとどうしようもないことが分かっていまして、説得なんかせずにエリちゃんとの生活を楽しんでいます。時にはエリちゃんと内木君の仲を取り持つようなことまでしています。
それに対してチンプイの上司で侍従長のワンダユウは、エリちゃんに贈り物攻勢をかけたり、時には催眠術をかけるようなことまでして、エリちゃんの首を縦に振らせようと仕掛けてきます。ワンダユウさんの涙ぐましい、どう考えても女心を逆なでしているようにしか見えない無駄な努力を、エリちゃんの生来の優しさとチンプイの助けでひっくり返すのがこの作品の見所です。
エリちゃんの態度は終始一貫していまして、どんなに立派な人でも顔も見たことない人と付き合う気にはなれないし、まず本人が申し込みに来るべきではないかです。でも熱烈なアタックにまんざらでもなさそうな顔を見せることもあります。内木君一筋のように見えながら、たまにルルノフ殿下の甘い言葉や贈り物にもくらくらっとなるところが実に女性らしくていいです。この女性らしさが天真爛漫さと矛盾なく描かれているところがF先生の力だと思います。長いマンガ活動の末の到達点です。
連載の中ではエリちゃんが内木君とルルノフ殿下のどちらを選んだかは不明のまま終わります。エリちゃん自身もルルノフ殿下を嫌ってはいません。会ってもいないので判断ができないとしかいっていません。未来からルルノフ殿下との間の子供が来たこともありますので、ルルノフ殿下とくっつく可能性も残されています。それどころかファンの間では内木君こそおしのびで留学しているルルノフ殿下なのではないかという説が根強くあります。私はこの説には賛成ではないですけれどね。
結局玉の輿だからといって飛びつくでなし、普通の少年だからといって捨てるでなし、ルルノフ殿下と内木君の人間性を自分の目で確かめて相手を決めなさいというのがF先生がこの作品に込めた思いではないかと私は思います。この優しさと子供の可能性を信じることがF先生の終生のテーマでした。
ちなみに「チンプイ」は今や大声優となってしまった林原めぐみさんが初めて本格的に主役を演じた作品です(これ以前に短い作品の主役をやったことがあるそうです)。かけだしの頃の林原さんの作らない演技が私は好きです。
世界を救う「海の王子」でスタートした藤子不二雄の旅は、普通のお嫁さんとお姫様を自分の意思で選ぶ普通の女の子の話で幕を閉じたといえます。海の王子のように高貴な血もないし、超兵器も持っていないけれど、女の子はお姫様にも普通のお嫁さんにでも何にでもなることができるというメッセージをF先生は残したのではないでしょうか。
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