易経勝手読み(三一)・・・山睪損(山沢損)、風雷益
八月三日
山睪損と風雷益もペアになっている卦であることは卦辞を読めばすぐに分かります。損と益の字は両方の卦に出てきますし、或益之十朋之亀弗克違もまた両方に出てきます。この二つの卦は元々は一繋がりの詩で、後代に易として取り入れられたときに二つに分けられたのだと考えられます。
では元々どういう意味を持つ詩だったかというと、おそらく父親が子に与えた教訓です。それもただの親子ではなくて、周王が太子に与えた家訓だろうと思います。詩の内容自体は難しくありません。従来の解釈の手直しで解明することができます。
事を已めすみやかに往け
酌は之損なり
損ならずして之を益す
三人行けば
則ち一人損する
一人行けば
則ち其の友を得む
或(國)は之を益せ
十朋之亀も
違(韋)に克たず
損ならずして之を益す
臣を得て家を无ふ(うしなふ)
大作を為すを利用す
或(國)は之を益せ
十朋之亀も
違(韋)に克たず
王用て帝に享す
之を益すに凶事を用ふれば
孚はること有り中行せよ
公に告ぐるには圭を用てせよ
中行し公に告げれば従はん
國の依遷を為すに利用す
孚はること有らん心を恵め(つつしめ)
孚はること有らん我が徳を恵め(つつしめ)
莫は之を益せ
或(國)は之を撃て
立心は恒なし
些末なことは止めて、一本道を進め
酒盛りは国を損なう
損のようでいて利益になることがある
三人行けば一人仲間はずれとなる
(頼りにならない仲間と徒党を組んではいけない)
一人行けば真の友が得られるだろう
(孤独なときに助けてくれる友が真の友だ)
国を広げなさい
高価な亀(商)も
西方の風(周)には勝てなかった
損のようでいて利益になることがある
有能な家臣は家財をなげうってでも手に入れよ
大規模な治水工事をしなさい
国を広げなさい
高価な亀(商)も
西方の風(周)には勝てなかった
王は天帝にお供えをする
悪霊にお供えを捧げれば
王の地位を追われるであろう、中庸を行いなさい
諸侯に命令するときには(使者に)圭(玉器)を持たせなさい
中庸の精神で諸侯に命令すれば彼らも従うであろう
諸侯の国替えをするときには
反乱を招くことがあるので心を慎んで行いなさい
反乱を招くことがあるので神の加護を祈って行いなさい
そして軍勢を集めて
逆らう国を討て
初めのうちは迷いが生じるものだ・・・(元々は続きがあった?)
十朋之亀とは宝貝十綴りの非常に立派な亀のことでしょう。あるいは商には十人の卜官がいたという記録がありますので、商の卜官が使う亀という意味かもしれません。どちらにせよ、頻繁に亀の甲羅で占いをしていた商を表しています。
これに対して韋風とは西方の風のことで、周を表しています。或益之十朋之亀弗克違は質実剛健な周が、富貴で神憑り的な商に勝利したことを表しており、太子を奮い立たせる言葉でしょう。
孚は真心ではなく「捕虜、捕獲」と解釈するべきですので、この場合王が商の帝辛(紂王)のように戦いに負けて滅ぼされることを意味しているのだと考えられます。有孚(とらわることあらん)は、悪い行いの前後に出てきますので、このようなことをすると王の地位を追われるという戒めでしょう。
字統によると恵という字の本来の意味は慎むことなのだそうです。西周時代には反乱を起こした商の民を強制移住させたり、辺境の守りのために周族を辺境に配置したりと、諸侯の配置換えが多く行われました。これに対する反感も多かったのでしょう。最後の部分は諸侯抑制策ではなかろうかと思います。
周の前期は成王、康王、昭王、穆王と幼少な王が続きました。この詩は、これら幼少な王への戒めの言葉だったのではないかと考えられます。
山睪(山沢)と風雷は山を平らにするから損で、風と雷によって川があふれるので益なのですが、これは損益の字面から無理矢理つけたと推測され、あまり意味はないと思います。或いは王の最も重要な仕事である治水工事を意味しているのかもしれません。
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