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2011年9月 9日 (金)

易経勝手読み(三二)・・・風山斬(風山漸)

八月十二日

 従来の解釈では正式な幸せな結婚を表しているとされた卦ですが、これもまた本来とは正反対の意味になっている卦です。

 一見して分かるように、この卦辞は二つの詩が混ざり合ってできています。一方は鴻に関する詩、もう片方は夫婦に関する詩です。

 鴻に関する部分は「鴻漸于○」という形式が続いています。これを従来の解釈では立派な白鳥が沼地から大きく羽ばたく様子としてきました。

 ○の部分には干・磐・陸・木・(桷)・陵が入ります。

・于とは方形の盾のことでいわば板です。
・磐とは柱を立てるための穴(盤)です。
・陸とは幕で覆うことです。
・木とは心柱(大黒柱)です。
・桷とは垂木(屋根を乗せるための材)です。
・陵とはなだらかになっている山の斜面ですが、
 要するに屋根です。

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 全て家の構造に関する語です。

 于は長い曲刃の事です。

 従って、鴻はもともと工(大工)であり、漸はもともと斬(材木を斧で斬る)であり、于は斧で切った材木を鑓鉋(やりがんな)で整えるという意味ではないかと考えられます。

 鴻と漸は易に家の施工要領書が含まれているのを見て混乱した後世の人間が勝手に字を書き換えたのだと推測されます。あるいは春秋時代にはまだ漢字が未発達で大工も鴻も同じ「工」で表していたので、工を見て鴻(白鳥)と勘違いしてしまい、それだと斬では意味をなさないので漸(すすむ)に書き換えてしまったのでしょう。

 それでは鴻の部分の新解釈です。

工は干を斬り于る(きりけずる)
工は磐を斬り于る
工は陸を斬り于る
工は木を斬り于る
或いは其の桷を得たり
工は陵を斬り于る
工は陸を斬り于る
儀を為すに用ぶべき

大工は板を作る
大工は穴を掘って柱を立てる
大工は板で家の外壁を囲う
大工は心柱を立てる
大工は心柱と外壁の間に垂木を渡す
大工は屋根を葺く(ふく)
大工は外壁を完成させる
儀式にだって使える立派な家のできあがり

 竪穴式住居では外壁を支えるための小さい柱と屋根を支えるための心柱は別になっています。だから風山漸の手順では別になっています。陸が二度出てくるのは、まず最初に三方の外壁を作ってから、心柱を入れて屋根を作り、その後に最後の一方(出入り口がある壁)を作るという意味ではないかと考えられます。

 もともとは風山斬だったのでしょう。これは家の施工要領書ですので、確かに手順を踏むことだと言えないこともありません。順々に何かを作っていくこと、という伝承は残っていたのでしょう。

 次は夫婦の方です。夫婦の部分だけ取り出してくると、これはどう見ても不幸な結婚を表した詩としか言いようがありません。

飲食干干[行がまえの中に干]
夫征して復らざるに(かえらざるに)
婦孕めば育てず
婦三歳にして孕まざれば
終に之に勝なし

(初めのうちは)楽しく飲食
夫が戦役に出て帰ってこないのに
妻が妊娠して生まれた子供は、夫の家では育てない
妻が嫁いできて三年になるのに妊娠することがなければ
妻は髪飾りを外さなければならない(離縁される)

 勝とは婦人がつける髪飾りのことです。

 家の施工要領書と不幸な結婚がどうしてごちゃ混ぜになっているのか不思議です。私が推測するに、新居ができあがるより前に別れてしまった成田離婚のような夫婦のことを笑った詩ではないかと思います。

 そうすると、夫婦関係が切れることを斬で表したと解釈できそうです。結婚を表す詩の中に何度も何度も「斬る」が出てくるのはやっぱりおかしいと儒者も思ったから白鳥とか苦しい解釈をしたのでしょう。

 しかし古代人というのはどこでも皮肉屋ですので、結婚の詩であえて「斬」を連呼することで、そうそううまくはいかない結婚の本質の一部を表現しようとしたのでしょう。

 あるいは心柱よりも先に囲いを作るのは、家を建設する手順としておかしい気がします。常識的に考えれば、中心となる柱を立ててから外壁を作るべきだと思うからです。

 これは、きちんと手順を踏まんで仲を育んだわけではない急ごしらえの夫婦、外面ばかり取り繕う夫婦という意味が含まれているのかもしれません。

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コメント

抜群にさえてますねー。

冒頭に「女帰吉」とあって、これが「女が嫁ぐに吉」と解釈されてますが、
爻辞はさっぱり幸せな結婚観がしないのが疑問でした。

「漸」は「斬る」なんでしょうね。きっと。
白鳥が陸をゆっくり歩くとかいう旧来の無茶な解釈よりはずっと腑に落ちます。

それにしても「女帰吉」ってのはなんなんでしょう?

武丸さん、おはようございます。

語義通り、女は家に帰る方が吉、離婚した方が良いという意味では?

義の原義は「犠牲の動物をのこぎりで解体する」ですので「儀をなすにもちいるべし」も本来は「義をなすにもちいるべし」で、「大工は木材をのこぎりで切り刻む」という単純な意味かもしれません。

のこぎりは鋳鉄ではできないはずで、鍛造しないと駄目ですが、支那は昔からなぜか鋳造は得意だけれど鍛造は苦手な国でした。

のこぎりを使えば木材加工の効率は飛躍的に高まるけれど、これは古代の支那では舶来品で貴重品だったのかもしれません。

春秋戦国時代に製鉄の技術が飛躍的に高まって社会全体の生産性が上がったらしいのですが、風山斬(風山漸)そのあたりのことが反映された卦なのかもしれません。

これもおそらく、メソポタミアの動乱や遊牧民族スキタイ人の大移動によって西洋の文物が古代支那に導入された影響かもしれません。

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