易経勝手読み(三九)・・・火天大隨(火天大有)
八月二十四日
火天大隨と書いた理由については、このエントリーの最後に説明します。エントリー内では従来の呼び名に従って火天大有と表記します。
火天大有は戦利品を意味する卦です。戦利品の中でも最大なのは敵国の霊力ある高い位の人間です。睪雷隨(沢雷随)で有とは祭肉を取り扱う神官であると推測しました。大有とは偉大な神官です。敵国の神官(王に助言する大臣)を捕虜にして、敵の持っている信仰(国家機密)を丸裸にすることが最大の戦利品とされました。
大和朝廷、奈良朝、平安朝では、朝廷に服属した部民の族長や分家などが、天皇の家来となって中央で仕えています。これは戦いに負けた国の族長やその後継者が、臣となって王の下で祭祀を行うことで服属を誓った古い習俗が形を変えて残っていたことを表しています。祭祀を独占することは、相手の死命を制する意味合いがあったのです。
无に交わるは害なり
大車に以って載せる
公用いて天子に亨ぐ(ささぐ)
小人は克たらず(あたらず)
其れ彭に匪ず
孚を厥く(かく)こと
交わる如く
威する如し
天自り之を佑く(たすく)
死体は害なので片付ける
戦利品を大きな車に載せる
大将は車に載せた戦利品を天子に捧げる
最大の戦利品は敵の高位の人間
太鼓を打ち鳴らしたりせずに厳粛に取り扱う
その捕虜の顔に傷をつけて臣とする
捕虜は痛みで身をよじらせる
傷をつけて聖なる状態になった捕虜には威厳が備わる
こうして聖別された捕虜には神の力が宿る
臣とは神に仕えさせるために目を傷つけられた神官です。神に仕える神官を何らかの形で傷つけて不具の状態にするのは、これまた古代に世界中で共通に見られた風習です。異様な状態にすることで霊力が宿るからだとか、完全な物には神が嫉妬するからなどと言われています。
霊力を持った臣は神からのお告げを王に伝えました。これがやがて王の助言者という意味を持つようになります。敵の有能な人間は生贄にされたりせずに、神の奴隷にされたのです。古く服属した部族というのはやがて譜代の家臣になります。こうして大臣は高い位を意味するようになりました。
山火賁で見たように火は飾りを表しますので、天(ザンバラ髪の捕虜)を傷つけて入れ墨などして飾るので、火天大有です。
この場合の有は睪雷隨(沢雷随)で推測した左と月が合体した文字だと思います。
左には助けるという意味があります。左大臣です。補佐・佐官という熟語にその名残があります。佐の古訓は「すけ」です。大有の有が左と月が合体した字だったとすると、この卦は大いなる戦利品、君主を助ける人、という意味になります。
これに対して右には代理という意味があります。火天大有の中には「天自り之を佑く」という句があり、これは「神が憑り移って神の代理として託宣を宣べる」という意味でしょう。火天大有の爻辞は左という字を意識した内容になっていると言えます。
そして火天大有は、本来は生贄に用いる戦利品の捕虜一般の「隨」に対する、大いなる捕虜「大隨」だったのではないかと私は推測しています。睪雷小随と火天大隨です。もしくは睪雷小有と火天大有でも構いません。この二つの卦はセットであると思います。
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