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2011年10月22日 (土)

易経勝手読み(四九)・・・睪天夬(沢天夬)

九月二十六日

 これは後ろの天風姤とセットになる卦です。天風姤は位の高い家、或いはお金持ちの家からお嫁に来た女性の卦でした。これとセットになる睪天夬(沢天夬)は貧乏なお婿さんの卦です。

 睪は剝いだ獣の皮を晒して肉を腐らせることを意味する字です。ですからボロボロ、分解する、という意味を持っています。天もまたザンバラ髪の人という意味を持っています。夬(カイ)は穴があいたという意味です。ですので、睪天夬は穴だらけの服を着た、汚い髪の人という意味になります。

 睪天夬と天風姤はいわば逆タマ、でこぼこ夫婦の関係を表した卦と言えます。

 しかし、睪天夬の前段は馬のことを意味しています。でこぼこ夫婦の詩の前段になぜ馬が出てくるのかよく分かりません。錯簡かもしれませんし、深い意味があるのかもしれません。

 これはもしかして、姫昌(文王)と太姒のことを親しみをこめて歌った民謡かもしれないと私は考えています。

趾を前りて(きりて)壯にす
往きて為(ぞう)に勝たず
惕れ号ぶは(おそれさけぶは)
莫夜に戎有らん
[九頁]は壯なり(たてがみはそうなり)

君子夬夬(かいかい)
独り行きて雨に遇ふ
濡るるが若く溫有り
臀に膚なし
其れ行くや次且たり
言ふを聞きて信ぜず
陸を見る[見に草冠]に夬夬(かいかい)
中行せよ
号ぶ(さけぶ)なかれ


蹄を剪って立派にする
象には突撃しても勝てない
(象以外になら無敵)
夜中に畏れていななくときは
それは暗闇の中に敵兵がいる証拠
立派なうなじ(たてがみが立派)

お殿様は穴だらけの服
お供もいないので雨に遇えば
鍋の中の料理のようにびしょびしょ
臀だらけで細いところがないお妃
重くて歩くのにも息が切れる
お殿様は話を聞いても
 信じられなくて
幔幕の穴から花嫁をのぞき見
注意しなさい
驚いて叫び声を上げないように

 天風姤ではでぶっちょのお后は「ルイ豕(子豚ちゃん)」と呼ばれていました。これに対して、旦那様の方は馬なのかもしれません。馬の方はだいぶ褒められています。ちょっと不公平ですね(笑)

 前は水盆の中で足を洗って爪を切るという象形文字です。だから壯前趾でひづめを切りそろえるとなります。

 為は象使いの象形文字です。不勝為は象に勝てないとなります。でも古い漢文では否定は強力な肯定の意味で使うことが多いので、これは象以外になら何でも勝つことができるという意味でしょう。

 頁は顔を横から見た象形文字で、頁がつく字はほとんどが頭に関連があります。九には集まるとか先端とか言う意味があります。ですのでおそらく[九頁]で頭の毛が集まる部分、乃ち「つむじ」もしくは「うなじ」です。馬ですのでたてがみでしょう。たてがみは横から見る物ですし。

 溫とは鍋の中に湯気が充満するという意味です。鬱屈した感情という意味はここから派生しました。けれどもこの場合は鍋の中の料理のように濡れているという意味だと思います。

 臀无膚、其行次且は天風姤に出てくる句です。睪天夬が天風姤とセットであることがここから分かります。

 最後に出てくる「見」は草冠がついています。従来は何かの植物と解釈してきました。けれども「見」を旁(つくり)に持つ漢字は全て「見る」に関連する意味を持っています。植物などの意味で使われることはありません。だからこれもまたなんらかの見方を表すのでしょう。推測するに、草叢から覗き見るという意味でしょう。

 睪天夬と天風姤は、姫昌と太姒という風に深読みをしなくても、ただの貧乏で痩せっぽっちなお婿さんと、お金持ちでふとっちょなお嫁さんの夫婦という意味でも通ります。


 水雷屯では花婿が自分で馬車を走らせて花嫁を迎えに行っていました。これは普通の貴族の結婚です。けれども天風姤はあきらかに高い位のお嫁さんです。金などの宝飾品をつけています。睪天夬では花婿は花嫁の家には迎えに行かず、花嫁が幕営の中にいます。花嫁はかなり遠くから輿入れしてきて、しかも軍隊まで持っているらしい。変な夫婦だけれども、お互い決して位は低くないのです。

 太姒は十人も元気な男の子を産んでいますので、相当たくましい女性だったのでしょう。

 しかも太姒は当時としてもいにしえの夏王朝の末裔です。田舎者の周としては、おっかなびっくり嫁に迎えたのではないでしょうか。

 姫昌の母親は商の王族でした。その姫昌が夏の末裔を嫁に迎えたとなると、普通は周は商に反逆を企んでいるのかと疑われます。商は同族婚を繰り返している国なので、姫昌にもまた商から嫁を迎えて欲しかったはずです。

 しかし、太姒が嫁のもらい手もないような容姿だったとしたらどうでしょうか。商は「蛮族の周め、そんなにまでして中華の仲間入りをしたいのか」と油断することでしょう。こうして嫁に迎えられた太姒は、勇猛な男子を十人も産み育て、周王朝発展の礎を築いたのでした。

 天風姤と合わせて読めば分かりますが、バカにしているようでいて、とてもユーモラスで愛情がある詩です。姫昌と太姒は、国父国母として周の民衆に愛されていたことを表す詩だと思います。

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