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2011年12月 3日 (土)

易経勝手読み(六一)・・・伐鬼方(水火既済、火水未済)  追記有り

十一月九日

 共通する句を多数含むので、水火既済と火水未済が意味に連関のある卦で、山益損と風雷益、あるいは水雷屯と山火賁と同様にして、一つの詩を分割して作った爻辞だろうことは推測が付くのですが、関係のなさそうな句がくっついているので本来の形が復元しにくい難解な卦になっています。

 そこで、占いに関する句や補足説明や後代の価値判断と考えられる句を大胆に取り除いて原型と考えられる詩を復元しました。やはりこれは渡河に関する詩です。時間関係は既済、未済の逆で、前半の既済が軍隊が川に漬かって渡河を始める様子を表現しており、後半の未済が向こう岸にたどり着いて河から上がろうとする様子を表現しています。

其の輪を曳く
其の尾を濡らす
婦は其の茀を喪ふ

高宗鬼方を伐つ
三年にして之に克たむ
小人を用ふる勿かれ

東鄰に牛を殺す
西鄰に禴祭す
実に其の福を受けむ

其の首を濡らす
其の尾を濡らす
其の輪を曳く

震用いて鬼方を伐つ
三年にして賞有らむ
君子の光なり

車を引いて流れを渡る
車がすっかり川に漬かる
婦の車の覆いが流されるほど急だ

高宗が鬼方を征討される
三年で勝利するだろう
武将は名だたる方ばかり

陣の東で牛を犠牲に捧げ
陣の西で穀物をお供えした
神が我々を守ってくださるだろう

兵が首まで流れに漬かる
車を傾ける
車を河から引き上げる

殷の帝王は我が君を用いて鬼方を伐たれた
三年後には我が君は恩賞をいただくだろう
大戦役に従軍するのは侍の誉れというものだ

 従来高宗の鬼方征伐に関する部分は、錯簡とされてきましたが、むしろこちらの方が詩の主題です。鬼方というのは商(殷)の北方に割拠した異民族で、商は鬼方と熾烈な争いを繰り広げていたことが殷墟から出土した甲骨文の記録から分かっています。北方に居住した、遊牧民ではないかと推測されています。

 高宗武丁は商の中興の祖で、帝辛(紂王)から100〜200年くらい前の王です。在位三十二年に北方の胡である鬼方征伐の軍を上げ、三十四年に勝利したとされています。足かけ三年の大征伐でした。

 高宗武丁の父小乙の時代に周が初めて歴史に登場します。小乙二十六年、周族の長、古公亶父は岐山の麓に定住しました。歴史に登場したと言うことは、この時初めて商の配下に入ったと言うことなのでしょう。

 高宗の鬼方征伐は周の定住から三十四年目の出来事で、おそらく周は新参者なので商の先鋒を務めて勇敢に戦ったのでしょう。元来が遊牧民なので、同じく遊牧民である鬼方との戦いにおいて、周軍は主力として活躍したと考えられます。

 これによって周は商に認められ、商は古公亶父の末子の季歴に商王室の娘を降嫁させ、周の興隆への道が開けました。

 この詩はおそらく周の名を一躍高めた高宗の鬼方征伐を歌った詩でしょう。

其の輪を曳く
其の尾を濡らす
其の首を濡らす
其の尾を濡らす
其の輪を曳く
の解説です。

 輪は武器や糧食を運ぶ荷車、もしくは戦車と考えて良いでしょう。尾は馬の尾でも良いのですが、荷車の後尾ではないかと思います。車を川に引き込むときには、まず車輪を引っ張り、次に車の後尾が水に漬かります。

Cocolog_oekaki_2011_10_13_22_24

 車を川から引き上げるときには、車はお尻が水に漬かる状態となります。
Cocolog_oekaki_2011_10_13_22_29

 小学生の作文のように、忠実に渡河の手順を追った詩句であるのです。荷車の後尾が濡れていて、川から引き上げようと荷車を引っ張っている状態はまだ渡りきっていないので、未済という説明が付いています。

 婦喪其茀というのが少し場違いな気もしますが、戦場に婦(王の妃)が従軍したことを記した甲骨文が出土していますので、商の戦役では女性も従軍したのかもしれません。

 あるいは婦とは王妃の実家の軍隊を示しているのかもしれません。



 追記

 1976年に殷墟から未盗掘の墓が発見され、出土品から埋葬者が判明しているそうです。それは武丁の妃「婦好」で婦好は女性の将軍として軍を率い、封土までもらっていたことが多数の甲骨文から判明したそうです。商の婦好

 したがって、「婦は其の茀を喪ふ」は武丁の鬼方征伐にも将軍として従軍したであろう妃の婦好を表しているのは間違いがないでしょう。支那の位の高い女性は他人の目にさらされることを非常に嫌います。ですので婦好もヴェールで身体を覆うか、あるいは全面を隠した馬車の中にいたのだと考えられます。しかし、川の流れがあまりに激しかったため、婦好を隠すヴェールまで流されて衆目に身体がさらされたのでしょう。これは破天荒のことであるため、人々の記憶に残り、このようにして詩に歌われたのだと考えられます。

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コメント

「高宗の鬼方征伐」を主にするとなんとなく流れがみえますね。


本文外ですが、「小狐」がほとんど渡ったところで、尾を濡らすという
くだりが未済でよく引用されますが、
あの小狐ってなんなんでしょう?

投稿: 武丸 | 2011年12月 5日 (月) 06時32分

金文や詩経には狐はあまり登場しません。狐は割合寒く乾燥した土地に住む動物ですので、ジャングルと湿地帯が広がっていたであろう商と西周時代の中原にはあまりいなかったのだろうと推測されます。

従って彖伝全体が、地球環境が乾燥寒冷化して中原に草原が広がるようになってから書き足された部分ではないかと私は考えています。

そもそも支那の古典には狐はあまり登場しないので、狐にどういう意味をこめたのか計りかねるところがあります。狐=狡知というのは西洋の連想ですからね。今後の研究事項です。

投稿: べっちゃん | 2011年12月 5日 (月) 07時57分

斎藤さんの斎は、斎場という言葉があるように禊(みそぎ)や穢れを払うような感じがします。
「斎」という字は中華圏の国では「菜食」の意味もありますし。
既済・未済の済は水辺で行う、なんらかの禊の儀式とかじゃないかなあと思ってます。
キリストの洗礼みたいなの。

首まで水につかって、「婦は其の茀を喪ふ」は女性も服を脱いで裸になる。もしくは輪っかがついた何かを水につけて清める。
鬼方を討つ話がよくわからなくなりますが。

投稿: 武丸 | 2012年1月 9日 (月) 02時33分

 武丸さんこんにちは、素晴らしい説だと思います。

 殷の戦いには巫女が従軍していたらしいです。

 特に高宗武丁の妃の婦好は巫女として働くだけではなく武将として武勲を立てていたらしいです。鬼方征伐にも参加していたのではないでしょうか。

 水火既済と火水未済の歌はもしかしたら元々は婦好を讃える歌だったのかもしれません。

 だから真実は私の説と武丸さんの説を合体させた物になるのではないでしょうか。

投稿: べっちゃん | 2012年1月 9日 (月) 11時37分

狐というのはもしかしたら北狄(北方の遊牧民)のことかもしれないですね。

晋の文公(重耳)にはに狐偃という股肱の臣がいます。元々親の代に晋に帰服した、北方の騎馬民族の出身で、一族は代々晋で重臣として扱われています(おそらく自治を認められていたのでしょう)。

また、済は「わたる」ではなく「きよめる」と読んだ方が良さそうだなと武丸さんの説を読んで思いました。

私は易経は商(殷)系列の原典(雷地豫や天地否など、記述が非常に簡潔である特徴を持つ)と、周系列の原典(天火同人や天風姤など、主語+述語の文章となっている特徴を持つ)が合体してできたと考えているのですが、

未済と既済は殷の原典では、巫女が身体を清める何らかの祭儀で、これは周に受け入れられたときに鬼方征伐の伝承と合体して、渡河と遠征の要素が加えられたのではないかと。

輪が出てくる祭儀なら、日本に茅の輪くぐりというのがあります。神社の入り口に、茅で作った大きな輪っかを作り、それを通り抜けることで穢れが清められるという物ですが、輪を濡らすというのはそういう祭儀のことかもしれません。

あるいは意外なところで、イルカのショーが殷の時代にもあったなんてどうでしょうかね?さすがにやり過ぎかなあ?イルカは尻尾だけで立って水面を走ることができますよね(尾を濡らす)。それと輪っかくぐり(輪を曳く)。婦好は水族館のイルカショーのお姉さんだったなんて推測は無理かなあ・・・

投稿: べっちゃん | 2012年1月 9日 (月) 11時56分

合体させてもらえたらうれしいですわ。

四爻の「繻有衣」あたりも、
水に入るために薄い着物を着ているようなイメージがします。
そのあと「終日戒」ですから、儀式じゃないですかね。
終わったら上爻「有孚于飲酒」でみんなでお酒を飲んでお清め所。

たぶんぺっちゃんさんが言うように
「原典では、巫女が身体を清める何らかの祭儀で、これは周に受け入れられたときに鬼方征伐の伝承と合体して、渡河と遠征の要素が加えられたのではないか」
っていうような気がします。

「茅の輪くぐり」ってのははじめて知りました。興味深いですね。
イルカショーは面白いけど、さすがに無理w

投稿: 武丸 | 2012年1月10日 (火) 01時23分

武丸さん、おはようございます。

既済ですが、だいたい分かってきました。これも他の卦と同じように「齊」の意味を持つ言葉を並べたナゾナゾなんでしょう。

初九は(七一)で解明したように水草の菱。
六二は武丸さんがおっしゃるように水に漬かる禊ぎ。「勿逐七日得」は日本の斎宮はお籠もりをするのが役目ですので、一週間くらいどこかに籠もるような祭なのでしょう。どうやら全裸になる必要がある本格的な禊ぎのようです。
 ということは日本の斎宮は元々はそういう祭儀をする巫女だった可能性があります。斎宮に手をつける古典の話がありますが、当時としてはありゃポルノなんでしょうね。

九三は鬼方征伐、黄河を渡河して戦ったのでしょう。

六四は禊ぎ。これは「終日戒」だし、服が濡れるとありますので、一日で終わる簡略的な禊ぎでしょう。

九五は川の神様に何かを捧げる祭なんでしょう。

上六は六四よりも更に簡単な禊ぎ。あるいはただのお風呂かもしれません。
 商(殷)というのは東夷の文化を持っていましたので、きれい好きで日本人のように頻繁にお風呂に入ったんじゃないでしょうか。

 既済はなにかというとすぐに水に漬かりたがる商の人達の不思議な風習(日本人にとっては全然不思議じゃないですが)を周の人達が書き残した卦のように思います。

 未済は今のところ、無理矢理渡河戦に当てはめたので既済とセットになる未済ができたという考えですが、易経の記述というのは思っている以上に奥が深くてどれにも必ず合理的な内容がありましたので、未済の方にも既済とは別のきちんとしたテーマがあるのかもしれません。

投稿: べっちゃん | 2012年1月10日 (火) 07時30分

火水未済の六三に「未済」とあります。

私の研究では「未」はヤドリギのことです。十二支の解明の時に参考にした
ヤドリギの生態
ヤドリギの果実
によりますと、ヤドリギの種は粘着質によって、鳥の排泄口や木の葉から垂れて、宿り主の枝にくっつくのだそうです。

図らずもリンク先のサイトがこれを「へその緒のようだ」と表現しています。

したがって、六三の「未済」は「未は済なり」(ヤドリギの種は粘着質によってへその緒のように伸びる)と読むべきと言うことになります。

ヤドリギの粘着質の種は消化されることなく排泄口から出てきます。だから鳥の尾に付くこともあるでしょう(初六:尾を濡らす)。

九二の「曳其輪」も球状になるヤドリギ、もしくはヤドリギに寄生されてこぶ状になった宿主の枝のことかもしれません。

九四と六五はおそらくこの卦の本来の意味が分からなくなってからの鬼方征伐の詩の混入。

また検索をしたところ、なんとヤドリギの実で酒を造ることができるらしいです。日本では造り酒屋は新酒ができたことを知らせる(a href="http://www.kuroushi.com/sakabayashi/what.htm">酒林(杉玉)を軒先に吊しますが、是はどう考えてもヤドリギです。

すでにその起源は失われていますが、酒と宿り木の間には何らかの関連があるようです。しかもそれはかなり古い。

従って上九「有孚于飲酒、濡其首、有孚失是」はヤドリギ酒のことを意味しているのでしょう。日本では戦国時代に討ち取った首を保存するのに酒に漬けましたので、濡其首は孚(捕虜)を斬首し、首をヤドリギ酒に漬けて保存するという意味だと思います。

このように、おそらく火水未済のナゾナゾの答えはおそらくヤドリギです。水火既済とそっくりの爻辞が入っているのは、易経の作者の茶目っ気でしょう。ナゾナゾではよくある手法です。

寄生と未済の意味が分かりましたので、また後で整理して清書しますね。

投稿: べっちゃん | 2012年1月10日 (火) 22時54分

以上のように水火既済は沼の底から芽を出し長い水中根を伸ばして水面まで伸びて葉を広げる不思議な植物の菱。

そして菱のように水に漬かるという意味から派生した禊ぎと渡河戦。

水の下に茎と根が生えるので水火なのでしょう。あるいは水の上に可愛い花(火)を咲かせるのでスイカなのかもしれません。

そして火水未済は木に寄生する不思議な植物であるヤドリギを意味していると考えられます。

そして促成酒の醴(甘酒)に対して、じっくりと醸造させる醸造酒、もしくは蒸留酒のことを意味していると考えられます。

火水は、火で酒を沸騰させて、再び冷やして酒にする蒸留を意味しているのではないかと考えられます。

投稿: べっちゃん | 2012年1月10日 (火) 23時09分

武丸さん、

易経の中の狐や弧や弧の中には瓜と読むべき字がいくつかありそうなことが分かってきました。

雷水解は上海蟹のことを意味する卦であることが分かったのですが、その中に出てくる狐は瓜で蟹のことを表しています。

ですから、火水未済と水火既済の狐も元々はただの瓜であるのかもしれません。

投稿: べっちゃん | 2012年2月26日 (日) 01時55分

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