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2012年1月18日 (水)

易経勝手読み(七四)・・・水火齊(水火既済)

十二月二十五日 【土用】

 以前に水火既済と火水未済は商(殷)の高宗武丁の鬼方征伐を歌った詩であるという説を提唱しましたが、武丸さんのご指摘により、それはどうやらこの卦の一面に過ぎないことが判明しました。

 その後分析を進めた結果、水火既済と火水未済は非常に似通った句を多数含んでいる物の、全く別の事柄を取り扱った卦であることが分かりました。私の推測ではおそらく水火既済とされている卦は「齊(水草の菱、禊ぎ)」を表す卦であり、火水未済とされている卦は「未(ヤドリギ)」を表す卦でないかと考えられます。

 水火は卦の原義である菱と関連がありそうです。水の上に花(火)を咲かせるからです。商末から西周にかけて成立したと考えられる原易経に八卦の要素を持ち込んだ編集者は原易経の意味をある程度理解していた可能性があります。

 ただしこの編集者は齊の意味は分かったものの、未の意味は分からなかったようです。そのため、未もまた齊を表す卦と推測し、未を「未済(未だわたらず)」とし齊を「既済(既にわたりたり)」に変えてしまいました。そして齊の意味を渡河に限定し、鬼方征伐の詩を二つに分けて既済と未済に追加したと考えられます。

 ですから、爻辞の中には未済だけあって、既済はないのです。なぜなら既済はただの齊であり、水火の卦のナゾナゾの答えなので爻辞中には出てこないのです。それに対して、火水の卦においては齊は答えを導き出すためのヒントとして登場します。それと卦の題である「未」がくっついて未齊さらに未済と易経に八卦の要素を持ち込んだ編集者は卦の意味を変容させたのでしょう。

 ではまず水火齊(水火既済)からです。

 いつものように卦の字の原義を探ることから始めます。齊という字は現代の日本では斎場というように神聖な儀式を行う場所という意味で使われています。詳細は易経勝手読み(七一)に書きましたが、齊を旁に持つ漢字には臍・蠐・躋・穧・済・剤・薺・劑などがあります。それぞれの部首と意味は以下のようになります。

月+齊=臍・・・へその緒
虫+齊=蠐・・・カミキリムシやカブトムシの幼虫(長い芋虫)
足+齊=躋・・・高所に登る
禾+齊=穧・・・刈り倒された稲
氵+齊=済・・・水をわたること
齊+刂=剤・・・切り揃えられている
草冠+齊=薺・・・ナズナ(ぺんぺん草)

 ひょろ長く伸びた物、長くて弱々しい物、水に漬かる、切断面と言った共通の意味があります。

 齊の甲骨文字は菱形が3つ並んだ字形をしており、これはまさしく水草の菱であることが分かります。巫女の簪(かんざし)という従来の解釈は考えすぎです。それに齊が女性の髪飾りの意味で使われたことはなく、甲骨文字の時代からかんざしは簪という字が使われていたからです。

 菱は水草できれいな菱形の形をした種をしています。沼の底に沈んで芽を出し、数mにもおよぶ長い水中根(正確には茎)を水面まで伸ばし、輪状に数十枚の葉を広げます。

 水中から茎を伸ばすので「登る」という意味が派生します。長い水中根からひょろ長いという意味が派生します。水中に伸びる栄養補給の根っこであるので「へその緒」という意味が派生したのでしょう。大変に合理的な連想です。また水に漬かるので、そこから「渡る」とか「禊ぎ」という意味が派生したのでしょう。

 菱の実は鋭利で切り揃えられたような形をしているので揃ったという意味が出てきます。たくさんの葉を浮かべるので、揃っている、仲間という意味が派生します。

 それでは爻辞の説明に移ります。

初九 曳其輪、濡其尾
 これは齊の原義の菱のことです。菱は水面に輪の形に葉を浮かべます。そしてその葉は尻尾のような水中根で水底と繋がっています。それは船と碇(曳)のようです。下から引っ張ることを曳くと言います。

六二 婦喪其弗 勿逐七日得
 これは武丸さんが気がついたように巫女の禊ぎでしょう。婦は貴族の妻で、商(殷)の時代の貴族の妻には一族の安寧を祈る巫女としての役割があったらしいです。弗(おおい)を喪うですので、全裸になって禊ぎをしたのでしょう。一週間かかる本格的な儀式であると推測されます。

九三 高宗伐鬼方、三年克之、小人勿用
 これは(六一)で見たように商の高宗武丁による鬼方征伐を歌った詩です。高宗武丁には婦好という有名な妃がいましたので、そこから連想して書き加えられた句であると考えられます。
 現代語訳は「高宗は鬼方を攻めた、三年で勝利するだろう、従軍するのは立派な諸侯ばかり」となります。鬼方征伐には商に帰服した周が参加し、周族は武勲を上げて名を高めました。

六四 繻有衣袽、終日戒
 需には「やわらかい」という意味があり、絮や茹には「わた、ふやける、やわらかい」という意味があります。ここで臍が思い出されます。需子とは小さな子供のことなので、おそらく之は新生児をくるむ真床襲衾(まどこおぶすま)のことでしょう。ワタと言っても古代支那には棉はないので、蚕がはき出した真綿のことです。
 現代語訳は「へその緒が取れたばかりの新生児は、真綿入りの衣でくるむ」となるでしょう。沢山咸はセックスの卦で、風水渙は出産に関する卦でしたが、水火齊(火水既済)にいたって赤ちゃんの卦が登場しました。易には古代人の息づかいが凝縮されています。

九五 東鄰殺牛、不如西鄰之禴祭、実受其福
 これは高宗の鬼方征伐の詩の混入と考えられますが、あるいは禊ぎのお供え物かもしれません。

上六 濡其首
 これはおそらくお風呂のことです。首まで漬かるのです。商は東夷の文化を持っていましたので、日本人のようにお風呂に入ったのでしょう。

 以上のように、水火齊(水火既済)は水草、禊ぎ、渡河、新生児を表す卦です。隋唐以降の支那人は遊牧民の侵入や乾燥化によって水が苦手になってしまったため、この卦を理解しにくかったのだと思います。水と密接な関わりがある文化は日本や東南アジアの方に伝わりました。だから我々の方がこの卦を理解しやすいと思います。

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