易経勝手読み(七六)・・・火天大有
一月三日
書籍版「易経勝手読み」を作成していたら、どうやら火天大有は青銅器を意味する卦であるらしいことが分かりましたので大幅に修正します。以前は大いなる捕虜と解釈しましたが、その後私も金文を勉強するなどして新しく知識を得て考えが変わりました。
「易経」には既に火風鼎という卦がありますが、これの主題は青銅器の鼎ではなくて蚕です。鼎は糸繰りの道具として登場するに過ぎません。実は鼎を意味するのは火風鼎ではなくて火天大有であったのです。
初九「交はる无きは害はる(まじはるなきはそこなはる)」、害は器を破壊する象形文字です。青銅器の金文は権利の証拠として扱われたので、粘土のように金文が書き換えられたりしては困ります。青銅(ブラス)は銅と錫(スズ)の合金ですが、銅は軟らかい金属です。錫と合金にすることで溶けやすく、金色に光るようになるのですが、もう一つの効果として堅くなることがあげられます。初九は銅に錫を混ぜて青銅にして、固さを確保するという意味でしょう。
九二「大なるは車にもって載せる」は文字通り青銅器が重いことを表す爻辞です。大型の青銅器は数十キログラムあります。金文には「この金(金属)をつかって宝器を作れ」と書いてある場合も多いので、地金が下賜されることもあったようです。青銅器は重く、概して丸っこい形をしていたり長い足や取っ手がついていたりして持ち運びがしにくいため、輸送は車を使ったのでしょう。
九三の「公用ひて天子を享す(もてなす)」はわかりやすく、諸侯はこれを使って王様のために料理を作るという意味になります。これにより大有の卦が何らかの料理道具を表す卦と判明します。「小人は克へず」は身分が低い者は所有が認められないという意味です。このあたりで大有は青銅の鼎(足が三本の大きい鍋)ではないかと推測が尽きます。
九四「それ彭(ほう)にあらず」の彭は大きな太鼓のことです。青銅製の太鼓も出土していますので、彭もまた一般的な下賜品だったのかもしれません。これにより、大有が表しているのが鼎や簋などの料理道具の形式をした青銅器であることがほぼ確定します。
六五「孚の厥ること(けずること)、交わる如く威なるが如し」の厥は小刀を意味する字です。厥を作りに持つ漢字は「削る」という意味と「巻く、飛び跳ねる」という二つの意味を持っています。闕は二階に空間が空いている楼門。蕨(わらび)の芽はグルグル巻です。蹶起は飛び跳ねることを意味します。猖獗はひどく猛威を振るうという意味です。
さて削ったらグルグル巻きになる物とは何でしょうか?鉋(かんな)です。古代なので鑓鉋(やりがんな)でしょう。木材の表面を整えるための道具で、鑓の先に小刀があって木材を削ります。削りカスはバネのようににグルグル巻きになります。
従って六五は捕虜を鉋で傷つけるとなりますが、おそらく野蛮人の入れ墨のように複雑な文様が青銅器には描かれているという意味と考えられます。青銅器には奇怪な文様が刻まれています。
上九の「天よりこれを祐ける」は青銅器によってお供えを欠かさずしていれば、天はあなたを助けてくれるだろうという意味で、これもまた金文に多く刻まれている文句です。
書籍版にはもっと詳しい解説を書きましたので、楽しみにしてください。
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