易経勝手読み(七八)・・・風地雚(風地観)
一月十七日【望】
雚(鸛)はコウノトリの象形文字です。従って風地観は本来は風地雚であり、コウノトリのことを意味する卦です。
コウノトリは全長一メートル、羽根を広げたら二メートルに及ぶ大型の鳥類です。東洋のコウノトリは、シベリア南部と中国の江南地方を行ったり来たりする渡り鳥です。渡る途中で日本や華北平原に立ち寄ります。その土地が気に入ると、渡りをせずに日本や華北にとどまって一年中暮らす場合もあります。
コウノトリは世界中でめでたい鳥とされてきました。夫婦仲が非常に良く、かいがいしく子育てをするからです。血のつながりがある親族で群れをつくり、若い鳥が老いた親鳥の世話をするとも言われています。松のような高い木の上に直径二メートルにもなる大きな巣を作ります。かつてはあまり人を恐れず家の屋根や高い塔に巣を作ることもありました。
雚をつくりに持つ漢字には観・罐・鑵・灌があります。観はコウノトリの特徴的な赤く縁取りしたような目と、コウノトリが子供から目を離さないように見守るという意味です。
罐は古代の水筒で、鑵は井戸から水をくみ上げるつるべ(桶)です。コウノトリはドジョウやカエルを丸呑みして巣まで持ってきて、はき出して子供に与えます。ですから水をためてそしてはき出す水筒と桶に雚がついているのです。
灌は水はき出す、群れる、慣れるという意味がありますが、どれもこれまで見てきたようにコウノトリの特徴です。
雚をつくりに持つ漢字には他に歓・懽・讙・驩などがあり、いずれも「大きな声」「呼び合う」という意味があるのですが、コウノトリは鳴かないので、これは鶴の大きな鳴き声を表していると考えられます。両者は大きさや羽根の色、そして夫婦仲がよい生態などが似ているので、日本や中国の民話や神話の中でよく混同されています。
では爻辞の解説です。初六の童は山水蒙で見たように瞳です。コウノトリは大きい目の回りが赤く縁取りしたように色づいています。初六はこのコウノトリの特徴的な目を表しています。
六二の規はぶんまわし(コンパス)です。コウノトリは大きなピンセットのようなクチバシをしています。
六三はおそらくコウノトリが渡り鳥であることを表しているのでしょう。コウノトリは夏にシベリア南部や満州で子育てをし、冬に江南地方に渡って越冬をします。江戸時代までは日本でも子育てしていたので、古代には棲息地はもっと広くて中国全域で棲息していたのだと思います。定期的に現れるコウノトリの生態を「進退する」と表したのでしょう。
六四はコウノトリがめでたい鳥として大事にされていたこと。日本でもヨーロッパでもコウノトリが住んだ村は繁栄すると言われ、大事にされました。「王を賓とするに利用す」は「王様をもてなすためにコウノトリを料理する」という意味ですが、逆に言うと王様しか食べてはいけなかったという意味になるでしょう。
九五と上九はコウノトリが夫婦仲が良くて添い遂げること、子供を仲良く育てること、一族で助け合って生きていることを立派な人間、すなわち君子のようだと言っているのでしょう。
コウノトリは、大きな翼を広げて風のように空を飛び、高い木の上に巣を作り(易では木を風で表す)、地面を歩き小動物を捕まえて食べるので、風地観(風地雚)です。
風山漸が白鳥になったのは、風地観のことが間違って伝わったのではないでしょうか。卦の形象も風山漸よりは風地観の方が大形の鳥に近いと私は思うのですがいかがでしょうか?
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