易経勝手読み(八一)・・・天山遯(天山彖)
一月二十七日
天山遯は本来は天山彖であり、補助や飾りを意味する卦です。
遯とは見ての通りしんにゅうの中に豚が入った形をしており、「逃げる」という意味の漢字です。甲骨文字や金文では豚は豕と書きました。これと非常によく似た彖という文字があります。彖の意味は「豚が走る」です。つまり遯と同じ意味を持っています。したがって、天山遯が元々は天山彖であったと推測することができます。「彖」では道徳的な徳目として意味をなさないので、後世の人が意味が同じで人間の行動と関連がある「遯」という文字に置き換えてしまったのでしょう。
初六 掾は尾(えんはお)
六二 これを執ふ(とらふ)に黄牛の革を用ふる
これを説くに勝ふる(たふる)ものなし
九三 縁を係る(つらねる)
臣妾を畜ふ(しんしょうをやしなふ)
九三 彖を好む
君子は吉
小人は否なり
九五 嘉なる彖
上九 肥たる彖
初六 掾は下っ端の役人
六二 黄色い牛の革で屋根の椽(たるき)を固定する
絶対にほどけない丈夫な屋根ができる
九三 郎党を引き連れる
使用人やお手伝いさんを雇う
九三 美しい着物を好む
身分の高い人にはできるが
庶民にはできない
九五 彫刻をほどこした玉は美しい
上九 脂ののった豚
初六は彖に手偏が付いた掾でこれは下っ端の役人という意味です。古代の日本の律令制では、中央の貴族が任命される国司の一等官(今の県知事)を上、二等官(副知事)を介、三等官を掾と呼びました。実務を握っているのは介で、掾はその下役です。下っ端の役人であるから尾(しっぽ)です。
六二は彖に木偏が付いた椽で、これは家の棟から軒にかけて掛け渡した屋根を支える木材です。豚のあばら骨のように見えるので彖がついています。椽は屋根を支える重要な部材です。重みがかかりますし、ななめに渡しますので不安定です。竪穴式住居のような原始的な家屋では、部材を縄で縛って組み立てました。椽は特別に丈夫な革の紐で固定したのでしょう。
九三は親類縁者の縁(緣)です。係には連なるという意味がありますので、これは使用人を雇うという意味でしょう。妾はいわゆる二号さんに限定する必要はないと思います。女性の使用人全般でしょう。昔は家事に人手がかかりましたので、少し裕福な家ではお手伝いさんは必須でした。
九四は彖に衣偏が付いた文字[衤彖]です(辞書には載っていますが、残念ながらワープロでは出せません)。赤い縁取りをした黒い着物、あるいは王后が着る主でが黒で裏が紗(薄い上等の絹)の着物です。ですから九四は着道楽、美しい服をコレクションすることでしょう。ですから、君子(お金持ち)にはできるけれど、小人(庶民)にはできないとあります。
九五は彖に王偏が付いた文字[王彖]です。玉に彫刻して模様をほどこすことをいいます。嘉というのはめでたいとか美しいという意味です。古代の中国人は玉を珍重しました。
上九は彖の原義、すなわち豚のことです。古代ですので、まだ祖先の猪と余り違いはなかったかもしれません。古代中国では豚が飼われたことが発掘から判明しています。豚をかたどった青銅器や陶器も残っています。昔は太った豚は御馳走だったのでしょう。
このように彖が「助ける、末端、周辺、飾り」という意味を持っているのは、彖が元々は動物の肋骨(あばら)をかた取った文字であったからでしょう。肋骨は身体を支える背骨の横に付いていて、内臓を守ります。体重は支えませんが、身体になくてはならない補助的な役割を果たす骨です。そして背骨にくっついています。そのため彖は補助を意味する文字になったのです。
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