« スミレちゃんがやってきた!のレビュー | トップページ | 民主党は平安貴族 »

2012年2月 4日 (土)

パーマンとチンプイ

「スミレちゃんがやって来た!」からさかのぼってたどり着くのは、第291話の「10万分の1の風船を追え」だと思います。パー子が三夫君に一歩進んだ気持ちを抱くようになったことを表すエピソードです。

ラブコメとしてパーマンを見た場合、この話が全体の転換点になっていると思います。ラブコメは一般的に、数多くの候補者の中から二人がお互いを恋人として絞るまでが前半で、二人だけの間でキャッチボールが進んでお互いの気持ちを高め合うのが後半です。

「めぞん一刻」で言えば五代君が骨折するエピソードが転換点になっています。この後は基本的に響子さんは五代君一筋です。響子さんが五代君と結婚するつもりでいるのは言葉の端々から分かります。

さて、「10万分の1の風船を追え!」の内容を追ってみましょう。

スミレちゃんが10万個の風船を空に向けて飛ばします。その中にはただ一つだけ、人気番組「探偵少女物語」におけるスミレちゃんとの共演権入りの風船が含まれています。

これは番組のプロモーションで、当時学校の催し物などでよく手紙付きの風船が飛ばされており、その世相を反映しています。

でも飛ばした風船がゴミになることも問題になっていて、パー子の口からそれが語られています。ゴミが野鳥に絡まったり、大型の魚やウミガメが海草と間違えて食べて死ぬことが問題となったため、1990年頃から風船飛ばしは下火になりました。

さて、風船を巡って町は上へ下への大騒ぎになってしまい、パーマン1号もパーマンパワーを濫用して風船取りに参戦します。パーマン1号がおそらく一番風船を捕まえた人になったと考えられますが、その中にはラッキーカード(共演権)はありませんでした。

やがてラッキーカード入り(と思われる)風船が電柱に引っかかっているのをカバオと三夫君(コピー)が見つけて、取り合いになるのですが、電柱から落下、風船を狙って駆けつけたパーマン1号が二人を助けますが、そのかわりに風船はどこかへ飛んでいってしまいました。

パニックになった町を見て反省しているパー子がラッキーカードを手にしてしまい、三夫君にプレゼントしようかどうか悩むのですが「フェアにしないとね」と言って思いとどまってラッキーカードを捨ててしまいました。結局カードを拾ったのはヒゲダルマ先生でした。

以上です。ではこれからなぜこれが二人の転換点なのか見ていきましょう。

10万個の風船に恋人を一人に絞る、というテーマがこめられています。ふわふわと風任せで空を飛ぶ風船が女の子の移り気な気持ちであることは明白です。

スミレちゃんはお仕事のつもりで風船を飛ばしたのだけれど、その後パー子として三夫君と話している内に、この風船を三夫君が拾えばパーマンの立場を離れて、スミレ本人としてつきあえるかもしれないことに気がつきます。

けれども、この時三夫君が妄想したのはスミレちゃんとの結婚式であったのに対して、パー子が妄想したのはパーマン1号と一緒にパーマンのままで家族を作る夢でした。二人の間には子供が3人もいますが、子供までパーマンマスクをかぶっています。

パー子は三夫君と結婚してもいい(このくらいの年の女の子は付き合うの後は結婚くらいしか思いつかないものです、その間の方が長いのにね)と思っているのに、スミレ本人として想像ができない自分に驚きます。

パー子は、複雑な気持ちでパーマン1号の風船取りを見守ります。重要なのは、普段なら「サボるな!」と怒るところを、見守るだけで取るに任せているところです。

パー子は三夫君に風船を拾ってほしいのです。

そして風船はパー子の手元に戻ってしまいました。彼女は三夫君とパー子として付き合うのかスミレとして付き合うのかの選択を迫られます。

ここでラッキーカードを三夫君に渡せば、三夫君は喜んでくれてパー子としての関係もよくなる。さらにうまくすればスミレちゃんとしても三夫君と仲良くなれるかもしれません。

けれどもこれでは三夫君をはめたのと同じことになってしまいます。スミレちゃんとして付き合って「実は私がパー子なのでした」という順番でいけば、確かに楽に三夫君を手に入れられるかもしれませんが、芸能人としてのステータスを濫用していることになります。

プロ野球選手がカバオ達の草野球に加わるのと同じです。勝てて当たり前。

それにもう一人の人格として大事にしていたパー子が、完全に仮の姿となってしまうことになります。一体それで良いのだろうかとパー子は自問します。

本当はお転婆でヤキモチな飾らない自分を三夫君に愛してほしいのに、そして三夫君はパー子を受け入れてくれているのに、スミレちゃんとして三夫君を手に入れてしまうと、もう彼の前でパー子でいられなくなってしまう・・・

このジレンマの解決がその後のパー子の課題になります。パーマンの後半部の通底音は、パー子の苦しい胸の内の叫びです。

といっても、ボックス第4巻はまだ発売されていないので、かすかな記憶だけでいっているのですが。

もう一つ、実はスミレちゃんとしてつきあい始めてしまうと、最終的には三夫君との関係が破綻してしまう可能性も高いのです。

おしとやかなスミレちゃんとしてつきあって、パー子であることを明かすと、三夫君の中にあるスミレちゃんのイメージが崩れてしまいます。パー子としても気の措けない仲間としてつきあうこともできなくなります。

先々のことをよく考えてみると、実は一見成功率が高そうに見えて、大失敗の危険性も高いことが分かります。

だから「10万分の1の風船を追え!」以降のパー子はわざと三夫君の前で「私が星野スミレだったらどうする?」というような思わせぶりな振る舞いを繰り返すのでしょう。

パー子はどの順番で三夫君と付き合えば二人の関係を崩さずにすむのか試行錯誤を繰り返すようになります。

でも、その答えは分かっていて、まずパー子として正体を明かし、そしてパー子でもあるスミレとして付き合うしかないでしょう。

私はお転婆なパー子でもあるスミレちゃんが受け入れてもらえるかどうか確かめてから、愛の告白をした方が良いと思うのですが、それは人それぞれで、パー子として告白をしてから正体を明かすべきだと考える人もいると思います。正解はないでしょう。

コピースミレはこれが分かっているのでことあるごとに本人に好きだと打ち明けろとけしかけたり、スミレとして三夫君と仲良くなろうとしたりするのです。

三夫君とコピーは同じ人格が二つあって似たようなことをやっているだけですが、コピースミレは、コピーではなくて、スミレちゃんのもう一つの人格を表現していて、スミレちゃんの方がより難しい問題を抱えていると言えます。

また三夫君の気持ちもあります。三夫コピーは気がついているように、三夫君もパー子ともっと仲良くなることは望んでいるのですが、正体を明かしてくれないのでもう一つパー子を信用できないのです。

この三夫君の気持ちは当然だと思います。

「スミレちゃんがやってきた!」でパー子が正体を明かす決心をしたときにあれだけ喜んだのはそれが理由です。好奇心だけではないと思います。

漫画版最終回は別れという極限状態で両方のイメージを崩さない状況が確保できたので正体を打ち明けられたのですが、これは付き合い続ければイメージが壊れてうまくいかないかもしれないというリスクから逃げたとも言えます。

とてもきれいな最終回なのですが、なぜか映像化を藤子・F・不二雄先生や藤子プロが避けているのは、ある意味パー子のジレンマから逃げた最後だからです。

漫画パーマンのスミレちゃんは、課題から逃げてしまいました。だからドラえもんに出てくる大人になった星野スミレの前には三夫君は帰ってこないのだと思います。

F先生はそこまで考えているはずです。

F先生は、視聴者には、逃げたスミレになってほしくないと思っていたのかもしれません。かっこよくなろうとして、大切な何かを失ってはいけないという隠れたメッセージです。

逃げなかったスミレ、それがチンプイのエリちゃんです。だからF先生はアニメの中ではチンプイが一番好きだといったのだと思います。



蛇足になりますが、

チンプイはパー子を

パー子=エリちゃん
星野スミレ=ルルノフ殿下

に分解して作った作品です。

だから作品としては二人は結婚して一体になるしかない。普通この手の話ではステータスが高い殿下が振られて、さえない内木君が恋には勝つのだけれども、物語世界の中ではそうはなっていないのはそういう組み立てがあるからです。

しかしF先生はそれは作者の勝手な都合で、エリちゃんには自分で選択をしてほしいと思っています。だからエリちゃんは作品内では答えを出しません。

星野スミレが答えを出さなかったのは逃げでしたが、エリちゃんが答えを出さないのは、読者にF先生の都合を強制したくなかったからであり、これは逃げではないのですね。

F先生は最後まで子供の可能性を信じた漫画家でした。

« スミレちゃんがやってきた!のレビュー | トップページ | 民主党は平安貴族 »

アニメ・コミック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173723/53787202

この記事へのトラックバック一覧です: パーマンとチンプイ:

« スミレちゃんがやってきた!のレビュー | トップページ | 民主党は平安貴族 »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
無料ブログはココログ