« 詩経勝手読み(八)・・・鴻雁 | トップページ | 詩経勝手読み(十)・・・淇奥 »

2012年5月12日 (土)

詩経勝手読み(九)・・・鶴鳴

閏三月二十二日

 鶴鳴は成語「侘山(他山)の石」の語源となった詩です。侘山の石とは、そこら辺に転がっているようなつまらない石でも、美しい玉を研ぐことくらいはできるという意味で、他人の失敗を反面教師にしましょうという意味の諺です。

 儒家の詩経解釈では鶴鳴は教訓を詠んだ詩ということになっています。鶴鳴を教訓詩として初めて引用したのは荀子(紀元前三世紀)です。荀子は鶴鳴の「鶴鳴于九皐、聲聞于野」を君子(人格者)は隠棲していてもその名声が知られるようになり、国中が感化されることを意味しているのだと解釈しました。

 孟子は易経を自らの思想の根拠として使用しましたが、荀子は同様にして詩経を教訓詩の集成として使用しています。儒家の易経と詩経の解釈は孟子と荀子に引きずられています。ただの酔っ払いが宴席で歌うような戯れ歌が政治の真実にされたり、恋の歌が神を讃える歌にされたりしています。

 鶴鳴は玉(ヒスイ)の産地睢水(すいすい)の美しい自然を讃える歌です。睢水とは河南省を流れる川で、古代には河原で玉が採掘されていました。現在では水量が減っています。睢水の上流部の独山では現在でも河南玉が採掘され、日本にも輸入されて数珠や宝飾品として多数流通しています。

鶴鳴于九皐 鶴が沼地に鳴き
聲聞于野  その声が野に響き渡る
魚潛在淵  魚は淵に潜り
或在于渚  あるいは川辺に泳ぐ
樂彼之園  あの丘で楽しむのは
爰有樹檀  木登りをする猿(猨)
其下維蘀  その下に流れる維(睢水)の落ち葉
侘山之石  山の石を拾って
可以爲錯  研いで形を整えましょう

鶴鳴于九皐 鶴が沼地に鳴き
聲聞于天  声が天まで響く
魚在于渚  魚が川辺に泳ぎ
或潛在淵  あるいは淵に潜る
樂彼之園  あの丘で楽しむのは
爰有樹檀  木登りをする猿
其下維穀  その下に流れる睢水に転がる粒
他山之石  山の石を拾って
可以攻玉  玉を作りましょう

 儒家は鶴鳴の「爰」の意味が分からず、例によって代名詞と言うことにして誤魔化してしまいました。しかし爰に犭をつければ猨(猿)になります。この詩が鶴や魚が自然の中で戯れる様子を描写していることから、爰はもともと猨であったと考えるのが自然です。

 何度も指摘したように、詩経が詠まれた時代にはまだ漢字は発展段階にあったので、援も媛も猨もすべて爰だけで表現されていたのでしょう。それを後世(戦国〜漢)の学者が書き写す際に、よく分からないままに部首をくっつけたのでしょう。

 したがって鶴鳴は第一聯も第二聯も六行目までは自然の美しさをたたえる歌であることが分かります。

 同様にして「維」も本来はただの「隹」であり、睢水という川を表現していたのではないでしょうか。

 翡翠(ヒスイ)というのはカワセミの羽根のように美しい石という意味です。隹は尾の短い鳥のことで、カワセミも含みます。さらにヒスイは小さくて丸っこくて、輝く石ですので目を連想させます。おそらく睢水という川の名称自体が「カワセミの羽根のような、瞳のような、美しい玉が取れる川」という意味を含んでいます。

 蘀は落ち葉であり、穀は穀物の粒です。ヒスイは山でも河原でも取れますので、山で取れるヒスイを落ち葉で例え、河原で取れる丸みを帯びたヒスイを粒で例えたのでしょう。

 錯は石を研ぐことです。山で取れるヒスイはゴツゴツしているので研いできれいな形にする必要があります。攻は作るという意味があります。河原で取れるヒスイは丸みを帯びているので、玉器にすることができます。

 侘山の石という故事成語は確かに詩の原意に近いです。ただし侘山の石はつまらない石ではなくて玉の原石ですので、失敗を反面教師にすると言うよりは、荒削りの才能を訓練によって整える切磋琢磨やダイヤの原石の方が詩の原意に沿っていると言えるでしょう。

 鶴鳴が河南省深部の豊かな自然(特に猿)を讃え、そして睢水で採取される玉を拾って研ぐ詩であるとすると、詩経国風(55)淇奥の解釈も従来とはまるっきり違う物となってしまいます。

 そして、論語の切磋琢磨の部分を孔子が引用した意図も変化してきます。

 詩経国風(55)淇奥の新解釈については項を改めます。

« 詩経勝手読み(八)・・・鴻雁 | トップページ | 詩経勝手読み(十)・・・淇奥 »

易経・春秋」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173723/54594402

この記事へのトラックバック一覧です: 詩経勝手読み(九)・・・鶴鳴:

« 詩経勝手読み(八)・・・鴻雁 | トップページ | 詩経勝手読み(十)・・・淇奥 »

2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
無料ブログはココログ