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2012年6月 9日 (土)

詩経勝手読み(十七)・・・大東

陰暦 四月二十日

 大東は東国の民が西周の搾取を告発する歌・・・と見せかけて、七夕の夜空を歌った雄大な歌です。

有饛簋飧 お茶碗に大盛りになったご飯(天球)
有捄棘匕 長いアーチ型をしている
周道如砥 周道(黄道)は研いだように滑らかで
其直如矢 矢のように真っ直ぐ
君子所履 君子(太陽・月・惑星)の通り道
小人所視 下々の者(恒星)は仰ぎ見るだけ
睠言顧之 これを見上げるたびに
潸焉出涕 不自由なこの身に涙が流れる

小東大東 小さな袋(いるか座)と大きな袋(こと座)
杼柚其空 大空を往き来する杼(シャトル)
糾糾葛屨 葛を編んだくつで
可以履霜 霜(天の河)を履んで渉ろう
佻佻公子 浮ついた伊達男(惑星)が
行彼周行 周道(黄道)を
既往既來 ふらふらと行ったり来たり
使我心疚 私の心を悩ませる

有冽氿泉 きれいな泉があるのに(女陰)
無浸穫薪 誰も薪を浸しに来てくれない(性交)
契契寤歎 寝床で夜もすがら待ち焦がれる
哀我憚人 ああ愛おしい人よ
薪是穫薪 芝刈りに来てください
尚可載也 薪を重ねてください
哀我憚人 愛おしい人よ何故私を悲しませるのか
亦可息也 私の許で休んで欲しいのに

東人之子 東の人は(秋の夜空)
職勞不來 仕事が忙しくて来てくれない(星が少ない)
西人之子 西の人は(春の夜空)
粲粲衣服 キラキラと着飾っている(きれいな星が多い)
舟人之子 船に乗る人は(天の河=夏の夜空)
熊羆是裘 毛皮を着た野蛮人
私人之子 神様のお気に入りの人は(北の夜空)
百僚是試 全ての星を支配する(地に沈むことがない)

或以其酒 白い酒をつぎましょう
不以其漿 水ではありません
鞙鞙佩璲 ちょろちょろした流れが広がっていく
不以其長 しかしその川幅を物ともしない
維天有漢 天に大河あり
監亦有光 そこに光る星を見よ
跂彼織女 ケンケンで進む織女星は
終日七襄 一晩で天の河を七回往復する

雖則七襄 七回往復するといっても
不成報章 綾絹を織るのではない(デートしている)
睆彼牽牛 美しい牽牛星は
不以服箱 牛を車に結びつけないでサボっている
東有啟明 東が白み始めてから(朝)
西有長庚 西に宵の明星が上るまで(夕方)
有捄天畢 天のドームは
載施之行 ぐるりと地下を回る

維南有箕   南に箕星(いて座)があって
不可以簸揚  ザルが下を向いている(夏の夕方)
維北有斗   北に北斗七星があって
不可以挹酒漿 縦向きで酒をつぐことができない(夏の夕方)
維南有箕   南に箕星があって
載翕其舌   ザルで蓋をした状態(夏の深夜)
維北有斗   北に北斗七星があって
西柄之揭   柄を西に向けて上ろうとしている(夏の深夜)

 この詩を解く鍵は第七聯にあります。箕は中国の星座二十八宿の一つで、いて座の下部を表します。南斗六星のおたまの部分に当たります。これが竹のザルのように見えるので箕星と呼ばれています。

 維北有斗が北斗七星であることは言うまでもありません。維は「糸で結びつける」という意味の字なのでやはり星座に相応しい形容詞です。

 北斗七星は柄杓の形をしています。西柄之揭は柄杓の柄が西に向いて上るという意味ですが、北斗七星は夏の深夜にこの状態になります。地面スレスレに、柄を西に向け、おたまを地面に平行にした状態になります。北の星は北極星を向いて左巻きに回りますので、北斗七星はそこから上に向かって上っていきます。

 その6時間ほど前の夕方には北斗七星は柄を下に向けた状態になっています。これでは水をくめないので、「不可以挹酒漿」となります。

 「不可以簸揚」は籾をすくい上げることができないという意味ですが、箕星は下を向いた状態で夜空を動きます。そして夏の深夜に完全に下を向いて地面を蓋するような形になります。これが「載翕其舌」です。

 第七聯が夏の夜空の運行を表していることは明白です。

 第五聯と第六聯には織女と牽牛が出てきます。襄は巡る、遷るという意味です。古来より織女星と牽牛星は七夕の夜に天の河を行ったり来たりしてデートすると言われています。第五聯と第六聯が織女星と牽牛星の逢瀬を意味するのも明らかです。

 「或以其酒、不以其漿」は天の河です。なぜなら昔のお酒は白かったからです。

 第四聯が昔の人達を惑わせてきた部分です。東の人は苦労していて西の人は着飾っていると読めるので、西周の搾取によって東国の人は貧乏な暮らしをし、西の都人達は贅沢な暮らしをしていると納得してしまいがちですがそれは読みが浅いと言わざるを得ません。

 夏の夜空の東には秋の星が、西には春の星があります。秋の夜空が寂しいことをご存じの人は多いと思います。それに対して春にはスピカ、レグルス、アルクトゥールスなど美しく優雅に光る星が多いです。東の人は仕事が忙しくて来ないというのは秋の夜空が寂しいこと、西の人はきれいな服を着ているというのは春のきれいな星空を意味しています。これまた七夕の夜空を表しています。

 舟人は舟に乗る人ですから、淮河や長江、そして東シナ海で生活する人達、即ち中原から見て南の人達です。倭人も含まれるでしょう。南には天の河がありますので、これまた舟を連想させます。彼等は中原から見れば野蛮人なので動物の毛皮を着ています。あるいは我々が知らない古代中国の星座のことを指しているのかもしれません。

 「私人の子」というのはお気に入りの人達という意味ですが、これは天帝(北極星)の回りの星々を意味しています。北の空の星は地面に沈むことがありません。北の星空は、天帝とその回りを回転する忠実な官僚のように見えます。

 このように、第四聯も七夕の星空を表していることは明白です。

 第三聯はすこしエッチな比喩が入っています。泉に薪(木の棒)を浸すというのはセックスの隠喩です。憚人というのはおそらく恋人のことで、第三聯は恋人が泉に薪を浸してくれないのが哀しいと歌っています。これは牽牛星を待つ織女星の寂しい気持ちを歌っています。

 第二聯は機織りのお祭りとしての七夕を表しています。七夕が機織りと密接に関わっているのは、年配の人であればご存じと思います。以前にも日本神話の分析で指摘しましたが、織女星が含まれていること座は杼(シャトル)の形をしています。杼は機織り機で緯糸を通すための道具で、経糸の間を往復します。

 杼が行ったり来たりする様子は、若い娘が家と恋人の間をいそいそと往復する様子に似ています。ここに、夏の夜空と機織りと恋愛が結びつく要素があります。しかも機織りは女性の仕事と相場が決まっていました。七夕が機織りと恋の祭になることは必然と言えましょう。

 第一聯もまた古来より人を惑わしてきました。周道というのは西周と東国の間にあったとされる道路です。ローマの道のように整備されていて、馬車が行き交っていたとされています。

 実は周道がそのような立派な道だったという根拠は、詩経の大東にしかありません。周道というのは実在したのでしょうか。

 周とはぐるりと回るという意味です。夜空をぐるりと回る道は、太陽と惑星の通り道「黄道」です。黄道は天を真っ直ぐと進み、太陽の通り道ですので、滑らかであると考えられていたのでしょう。

 この場合君子は、明るい天体である太陽・月・惑星です。いずれも黄道を通ります(厳密に言うと黄道と白道と惑星の通り道は異なりますが、肉眼で観察する限りにおいては気にするレベルではありません)。太陽・月・惑星は黄道を自由に進みます。それに対して他の星々は夜空の相対的位置を変えることはできません。

 この太陽・月・惑星と恒星の関係は、支配者と庶民の関係に似ています。そこで大東の作者は、周の苛斂誅求を告発する詩を装って、七夕の星空を詠んだのです。庶民の立場に立って、支配者の豊かな暮らしを反省する歌が西周では流行っていたのでしょう。

 大東は貧富の差を告発する歌に見えるように綿密に計算されているので、学者が幻惑されてきたのは無理もないのですが、これは七夕の夜空を詠んだ珍しい詩です。古代中国人の宇宙観を知ることができる貴重な詩です。詩経の山天大畜と合わせて研究する必要があります。山天大畜は冬の夜空でした。おそらくどこかに春と秋の夜空を詠んだ詩もあるのではないでしょうか。

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