詩経勝手読み(二五)・・・大田
陰暦 五月十五日
大田も田の神の讃歌です。そして古代の収税制度や福祉制度と思われる記述もあります。
これも甫田と同じく、田の神田夋と、その田夋の子孫である支配者(曾孫)と、百姓が登場します。曾孫と百姓が別々に扱われていることは、第四聯で曾孫が百姓から饗応を受けていることからも分かります。曾孫は田夋の代理人のような身分であったことがこの詩から分かります。
大田多稼 大いなる田、豊かな稔り
既種既戒 既に種籾を準備し、種の穢れを払った
既備乃事 農事を始める準備が整った
以我覃耜 田に最初の鋤を入れる
俶載南畝 素晴らしい、南向きの田に
播厥百穀 種をまき、草刈りし、様々な穀物を育てる
既庭且碩 広い公田(租)に苗が植えられたのをご覧になって
曾孫是若 天孫は満足される
既方既皁 穂が伸びて、実がついて
既堅既好 実がなって、収穫を待つばかり
不稂不莠 犬粟や蛇草などの雑草を刈り
去其螟螣 蝗や根切り虫を取り去り
及其蟊賊 害虫や雑草よ
無害我田樨 私の晩稲に害をなすな
田祖有神 田の神が
秉畀炎火 捕まえて火の中に投げ入れるぞ
有渰萋萋 雨を浴びてすくすくと伸びる
興雨祁祁 雨が盛んに降って作物を育てる
雨我公田 我らの公田(共同所有地)を潤し
遂及我私 それぞれの田に水が及ぶ
彼有不穫穉 晩稲の全ては刈り取らず
此有不斂穧 刈り取った稲束の全ては刈り取らず
彼有遺秉 田に残された稲束は
此有滯穗 穂がついたまま
伊寡婦之利 これは働き手がいない未亡人の取り分
曾孫來止 天孫が村にいらっしゃると
以其婦子 娘や子供たちが
饁彼南畝 南の良田にご案内し、御馳走する
田畯至喜 田夋が来たりて喜び
來方禋祀 降り立った神を、誠意を込めてお祭りする
以其騂黑 赤い馬(鹿?)や黒い馬を料理し
與其黍稷 稗や粟を炊いて
以享以祀 料理してお供えする
以介景福 福が日差しのようにまんべんなく降り注ぎますように
第三聯から、水源に近い部分に共有の田があったことが分かります。村人の生存を確保するため、水の回りが良い田の収穫物は村人共有の食糧とされたのでしょう。水源から遠い場所に個人所有の田があったようです。
第一聯の且はおそらく第三聯に出てくる公田のことであり、租庸調の租(穀物の税金)でしょう。租とは祖先に捧げる穀物という意味の漢字です。祖先祭祀を握っている天孫(曾孫)が、公田の名目的な所有者とされていたのでしょう。
第三聯の後半には、夫を失い働き手がいなくなった未亡人のために、みんなが収穫の一部を残していたことも分かります。
第四聯には、天孫が来て神がやってくるとありますので、天孫は神主やシャーマンのような存在だったと推測ができます。
この詩もおそらく東夷の詩です。
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