詩経勝手読み(四六)・・・鵲巢
召南の冒頭の四詩、鵲巢、采蘩、草蟲、采蘋はただの恋愛詩、もしくは予祝詞として解釈することも可能ですが、夏姫の伝説と関連づけて理解することも可能です。
もともとは夏姫の伝説とは別個に生み出された一般的な詩だったのでしょうが、夏姫の詩のあとにこれらを並べたのは、詩経の編纂者がこの詩が夏姫の伝説に相応しい詩であると考えたからでしょう。
おそらく夏姫の伝説は紀元前六世紀の中国で歌劇として親しまれていたのではないでしょうか。鵲巢、采蘩、草蟲、采蘋は劇の中で演奏された歌なのではないでしょうか。
鵲巢は鵲(カササギ)の巣の中に、鳩(ハト)が住み着いたという詩です。そしてなぜか鳩の巣の句のあとに、車の行列の句が続きます。これはどういう意味があるのでしょうか。
カササギはカラスの仲間で、黒白のツートンカラーをしています。カラスの仲間なので、高い木の枝に巣を作ります。非常に賢い鳥です。
鳩巣は粗末な住み処、仮住まいという意味です。ある鳥が放棄した巣を別の鳥が再利用するのはそんなに珍しいことではないのですが、中国では鳩は巣作りが下手なので他の鳥の巣を再利用するということにされています。
屈巫は楚の共王から外交使節に任命された際に、一切合財を車に載せて国を抜け出しました。春秋左氏伝では外交使節には似つかわしくない移住でもするかのような屈巫の行列を人が見とがめたという逸話が記録されています。
屈巫は斉で下役に使節の印綬を渡して任務を放棄し、斉に亡命しました。おそらくその時に夏姫も呼んだのでしょう。しかし斉はすぐあとに戦争に負けたので、更に晋に再亡命しました。屈巫と夏姫にとって、斉の家は鳩巣、仮住まいだったのです。
屈巫の亡命は春秋時代に一般的だった貴族の亡命とはひと味違います。当時楚は中原の文明圏の外とされていたからです。中原の中での亡命は、ヨーロッパの中での移住みたいな物ですが、楚の人間が中原に亡命するのは日本人がヨーロッパへ移住するような物なので人目を引いたでしょう。カササギの巣にハトが住むというのにはそういった意味合いもあるでしょう。
鵲巢は屈巫の斉への亡命を表現した詩でしょう。
維鵲有巢 カササギの巣に
維鳩居之 鳩が仮住まいしているよ
之子于歸 あの子(屈巫)は帰服する
百兩御之 百両の行列を率いて
維鵲有巢 カササギの巣に
維鳩方之 鳩が入ってくるよ
之子于歸 あの子は帰服する
百兩將之 百両の行列を引き連れて
維鵲有巢 カササギの巣に
維鳩盈之 ハトがぎっしり詰まっている
之子于歸 あの子は帰服する
百兩成之 百両の行列で
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