中国王朝の至宝展を見てきました
【旧暦】九月二十八日
東京国立博物館で開催されている「中国王朝の至宝」展を鑑賞してきました。日中国交正常化四十周年を記念した展覧会で、歴代の王朝の都で発掘された考古物を中心に、中国史学の最新の成果を紹介するという試みです。
五経の研究家としては夏商周の文物が展示されるとあっては逃すわけにはいかないので行ってきました。
NHKはこの展覧会を中華文明は夏時代から宋時代まで途切れることなく継承されていたという視点で紹介していたらしいのですが、ところがどっこい実際の展示会の方はその百八十度反対の視点であり、非常に野心的な企画でした。
「中国王朝の至宝」展は、中国は黄河流域の文明と長江流域の文明という二つの中心があり、それらは全然別個に誕生し、発達を遂げていたというテーマで貫かれています。
入ってきてまず目を引くのは蜀の三星堆遺跡で発掘された、縦目人の異名を持つ巨大青銅仮面であり、三千年前の遺物とは思えない精巧な金細工です。
展示の説明文は蜀の独自性を強調していて、蜀の文明は中原の古代王朝に先行していたことがハッキリとわかる作りになっています。
春秋時代の展示に斉魯の山東諸国を持ってきたのも初めての試みです。この時代の文化の中心が、漢中(陝西盆地)から東夷諸国に移っていたことがわかります。
対する南の文明は楚で、巨大で豪壮な遺物が多数展示されており、西周に優るともとも劣らない、というよりはむしろ中原よりも楚の方が強力で技術力も進んでいたのではと思わせる内容になっています。
秦漢の展示はこれまでにも何度かあった物で特に見るべき物はないのですが、その次の南北時代の展示では、入り口の説明で中原の民族は遊牧民に追われて江南へ逃れ、華北には西洋の影響を受けた遊牧民が新しい文化をもたらしたとハッキリと書いており、中国は同じ民族と文明が三千年前から現在まで続いていたとする教科書的な史観を覆す内容となっています。
これを中国単一民族史観で紹介したとは、NHKはよっぽどひねくれていると言わざるを得ません。
非常に野心的な企画であり、特に蜀と楚の展示には見るべき物が多く、お薦めです。
しかし思うのですが、中国の美術品は陶芸以外は商周の時代がピークで時代を降れば下るほど凡庸で退屈で退化していきます。今回の展示も東側の古代王朝の展示は押すな押すなの大盛況でしたが、西側の秦漢〜宋の展示は人もまばらで、みんな足早に通り過ぎていました。
中国って春秋戦国まではあれほど輝いていたのに、それ以降はなんで普遍的な価値を生み出せなくなってしまったんでしょうか、謎です。
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