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2017年3月18日 (土)

安産祈願

第十章の最後。これはお釈迦さまが親戚の女性の安産祈願をしたお話です。先に紹介した説話ではお釈迦さまは超自然的な力を否定していました。だからこの話は後世の付け足しとみなしたいところですが、設定の描写が詳細であるため、これは史実と考えざるを得ません。超自然的な話を否定する説話をいくつも並べた後にわざと置いてあることにも、わたしはこれに真実を感じます。これだけは本当に起きたことだ、とジャータカの著者は伝えたかったのではないでしょうか?
 
 
「狭い胎内で苦しんだ王子前生物語」(2-100)
 
これは、師がクンディヤの都に近いクンダダーナ林に滞在しておられたとき、コーリヤ王の王女スッパヴァーサー女性信者について語られたものである。
 
彼女は、難産によって七日の間苦しんでいた。
 
彼女は「このような苦しみをなくすために法を説かれる、かの世尊は、正しく悟りをひらいた人である。このような苦しみから逃れられるために修行をする、かの世尊のお弟子がたは、正しい修行者である。このような苦しみがそこではなくなるのだから、涅槃というのは、実に安楽なものである」と考えて苦しみを耐え忍んでいた。そして彼女は自分に今起こっていることと尊敬の言葉を伝えるために、夫に師の元へ使いに行ってもらった。
 
師は尊敬の言葉を聞くと「コーリヤ王の王女、スッパヴァーサーよ。安らかなれ、泰らかなれ、健やかなれ、健やかな男児を産め」と言われた。その世尊の言葉とともに、コーリヤ王女スッパヴァーサーは、安らかに健やかに健康な男の子を産み落とした。彼女の夫は、家に帰って子供が生まれているのを知ると、
 
「なんと不思議なことだ」と如来の威力に対して不思議稀有の心でいっぱいになった。
 
スッパヴァーサーは子供を産んでから七日目に仏をはじめとする弟子たちに布施をしたいと思い、招待のために夫に行ってもらった。その時仏と弟子たちはマハーモッガラーナ長老(目連)の信者に招待されていた。
 
師はマハーモッガラーナに説明をして納得させ、弟子とともにスッパヴァーサーの家に移って布施を受けた。
 
(その七日目にこの男児が立ってサーリプッタと話をしたことになっていますが、常識的に言ってあり得ないので、数年後お釈迦さまはスッパヴァーサーの家を訪れて、男児と再会したのでしょう)
 
スッパヴァーサーはこの様子を見て、「息子が仏の一番弟子である法の将軍サーリプッタ長老と話をしている」と喜びでいっぱいになった。
 
師は「それでは、他にこのような子供を望むか?スッパヴァーサーよ」とおっしゃった。
 
「尊師よ、もしわたしがこのような七人の子供を得られるものなら、それこそ、わたしには願ってもないことです」
 
師は感動の詩を述べて祝福して立ち去られた。
 
<解説>
コーリヤ国はお釈迦様の実母マーヤー夫人(摩耶夫人)と育ての親マハーパジャーパティー(摩耶夫人の妹)の実家です。二人とも王女、もしくは貴族です。正妃ヤショーダラー姫はやはりコーリヤ国の王女で、お釈迦様の母方の従妹でした(摩耶夫人の兄弟の娘)。すなわちスッパヴァーサーはお釈迦様の親戚です。多分ヤショーダラー姫の姪くらいにあたる女性であったはずです。彼女はお釈迦さまを非常に尊敬していました。
 
お産の苦しみは生理的なもので、いくら精神統一したからといって消えるものではありません。涅槃に達すれば安楽になるから、お釈迦様の教えを信じれば陣痛も消えるはずだという彼女の理屈は、はっきり言って論理的には意味をなしていません。しかし、お釈迦さまは人類が経験する最大の痛みと言われる陣痛の中で教えを実践しようとする彼女に感動し、安産されるように祈りました。
 
お釈迦様の祈りが届いたのかどうか、彼女は玉のような男の子を生みました。そして、産後七日目にお釈迦様をご招待しました。日本のお初参りのような習慣が古代のインドにもあったようです。
 
そして、数年後お釈迦さまはスッパヴァーサーの家を再訪しました。お釈迦様の一番弟子であるサーリプッタと会話する息子を見て、彼女は胸がいっぱいになりました。私は男性ですのでわかりませんが、女性ならこの感情はよく理解ができるのではないでしょうか。
 
そしてお釈迦さまはまだ子供がほしいですかと尋ねます。彼女は(難産であっても)また子供がほしいとお釈迦さまに答えました。これに対してお釈迦さまは祝福の言葉を述べられたとジャータカには書かれています。
 
仏教に厭世的な面があることは否定できません。お釈迦さまは修行者には生まれてくること自体を苦しみと説いています。しかし、子供を産んだ母親を祝福しています。したがって仏教は生命そのものを否定した教えではないのです。

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