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2017年6月 3日 (土)

天之御中主神と北極星

私は古事記にある日本神話は、星空の物語として解読できるのではないかと考えています。このことは、本ブログで数年前に発表したことがあります。これについて、詳しい説明を、古事記の本文も引きながら書こうと思います(新潮版を参照します)。

 

 

古事記上の巻冒頭には創世の神々が登場します。その中でも最も最初に出てくる神様が天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)です。この神様は北極星ではないかと考えられます。

 

私が参考としている「星座で読み解く日本神話」(勝俣隆、大修館書店、あじあブックス)も同様の見解を取っています。

 

11)日本神話の創世神話の概略はこうです。

 

1)天地が発生したときにひとりでに発生した神々が3セット七柱いた。

2)次に4セット八柱の男女一対の神々がいた。

3)そして伊耶那岐命と伊耶那美命が現れた。

4)伊耶那岐命と伊耶那美命は12の別天つ神の総意で、まだ沼地のようにドロドロの状態であった地上を整える使命を帯びた

5)二柱の神(伊邪那岐・伊邪那美)は、天の浮橋に立って、沼矛を指しおろして地上をかき回して淤能碁呂嶋(おのごろしま)を作った

6)そして淤能碁呂嶋に天の御柱と八尋殿(住居)を建てた

7)伊耶那美命は天の御柱を右から廻り、伊耶那岐命は左から廻り、まぐはひをした

8)水蛭子が生まれたがその子供は葦船に入れて捨てた、次に淡嶋が生まれたがこれも神様としてはカウントしない

9)次に伊耶那岐命から誘いの声をかけて、今度はうまくいって日本列島が生まれた

10)次に瀬戸内海と玄界灘の島々を産んだ

11)次に海の神、水の神、木の神、山の神、土地の神の順で産んだ

12)最後に文化の神を産んだが、火の神を産んだ時の火傷がもとで伊耶那美命は死んでしまった

13)怒った伊耶那岐命は、伊耶那美命が死んだ原因となった火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を殺した。火之迦具土神の死体からも様々な神が生まれた

14)伊耶那岐命は黄泉つ国(よもつくに:死者の国)を尋ねて、伊耶那美命を連れて帰ろうとした。しかし伊耶那美命は腐乱していたため、恐ろしくなって逃げた。

15)黄泉の国から帰ってきた伊耶那岐命が体を洗ったときにも様々な神が生まれた。そして左目を洗ったときに生まれた神が天照大御神、右目を洗ったときに生まれた神が、月読命、鼻を洗ったときに生まれた神が建速須佐之男命である。

16)伊耶那岐命は天照大御神を地上を統べる神として任命した。

 

2)原初の海と銀河

クラゲのようにドロドロだった原初の海の中から国土が生まれるというモチーフは、太平洋の島々やインドの神話にもあります(勝俣隆)。ポリネシア・メラネシア・ミクロネシアでは国土を海中から釣り上げるという神話があります。いかにも南洋らしいです。インドでは乳のような海をかき回しているうちに国土が固まったとしています。これは牛や山羊の乳を攪拌してバターを作ることからの連想でしょう。

 

勝俣が指摘するように、日本の創世神話は南洋の釣り上げ神話とインドの乳海攪拌神話の中間のような内容となっています。日本には大陸と南洋の両方の要素が受け継がれている証拠でしょう。

 

私は伊耶那岐命と伊耶那美命が降り立った淤能碁呂嶋とは、天の川ではないかと考えています。天の川は西洋ではミルキーウェイ(乳の道)と呼ばれています。夏の夜空に白くぼんやりと浮かぶ小さな星々の集まりは、神々が立った、いだ固まり切っていない国土の比喩として最適です。

 

3)天之御中主神と北極星

「シャマニズム アルタイ系諸民族の世界像」によると、シベリアの諸民族は北極星を天に建てた柱とみなす世界観を持っています。日本の方言でも北極星を「しんぼし(芯星)」(青森県他)「しんぼう(心棒)」(島根県)と呼ぶことがあります。

 

北極星を天の回転軸に見立てることは、世界中で見られます。

 

シベリアでは北極星はほぼ天頂に位置しています。そのため、空に一本の柱が立っていて天を支えているという星空の解釈が生まれやすいと言えます。勝俣氏が言うように、天之御中主神は北極星でしょう。

 

おそらく(1)の神のうち、天之常立神、国之常立神も北極星の別名ではないでしょうか。

 

4)天之御中主神を廻る方向

7)で伊耶那美命は天の御柱を右廻りし、伊耶那岐命は左廻りしたとあります。これの意味は何でしょうか。

 

日本神話はどちらかというと南洋の要素が強いことが言われています。特に国生み神話など原初を説明する神話ほど強く南洋の要素が出ています。

 

中緯度地帯では北の空の星は北極星を中心に左回りに回っています。体を反転させて南の空を見ると、南の空の星は右回りにアーチを描いて回っています。同じ運動でも、北極を向いて見るか、南極を向いて見るかによって、廻り方が反対に見えます。

 

 

Kojiki01

Kojiki02

創世神話(3)は、伊耶那岐命が北天の星々の運動を説明し、伊耶那美命が南天の星々の運動を説明していると考えられます。

 

5)沼矛はどこに刺さったのか?

天之御中主神が北極星であるとすると、淤能碁呂嶋(銀河)立った伊耶那岐命と伊耶那美命は、反対側の南極に向けて天の沼矛を刺したことになります。しかし北半球では、天の南極は地面の下なので見えません。

 

しかしそれで良いのです。沼矛の先から滴り落ちてできたのが国土であるので、沼矛を突き刺した先が地面に他ならないからです。

 

6)伊耶那美命の死

しかし、銀河の南天側は夏の間しか空に出ていません。したがって、冬が来ると伊耶那美命は隠れてしまうことになります。これが伊耶那美命の死です。生産と豊穣を象徴する女神が、冬になって死ぬ。とてもよくできています。

日本の国生み神話(1)~(10)を星空で見立てて説明すると以下のようになるでしょう。日本は島国なので、地上の世界は、海に囲まれた島にしました(ダジャレではないよ)。地球儀のような線は、天球上の赤経と赤緯を表しています。左上にある、経線が集中している点が天の北極です。

Kojiki03

銀河の北天側(夏の大三角)に伊耶那岐命が立つ、そして銀河の南天側(蠍座や射手座)に伊耶那美命が立つ。二柱の神々は、北極星を中心に天を廻る。そして天の沼矛を原初の海に突き刺してかき回す、すると銀河のしずくが落ちて国土が出来上がる。

 

しかし、夏が終わると伊耶那美命が住む南の星空は、地面の下に隠れてしまう。これは伊耶那美命が死んだことを意味する。秋の暴風雨(台風)は、伊耶那美命を失った伊耶那岐命の悲しみである。

 

夏には北半球の中緯度では、銀河の南天側は地面から生じているように見えますから、銀河が固まって地面ができたという説明がぴったり当てはまります。季節の入れ替わりまでちゃんと読み込まれています。南洋を航海する古代の船乗りは、このように壮大な世界観を持っていたのではないでしょうか。

 

次回は火之迦具土神が何であるかと、太陽神である天照大御神が、どうして創世神話の最後に生まれるのかを解明します。

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