神武東征と天の川
神倭伊波礼毗古命は、熊野川をさかのぼり、吉野の山中を越え、宇陀で兄宇迦斯(えうかし)・弟宇迦斯(おとうかし)兄弟の妨害を受けました。
命はまず八咫烏を遣わして降伏を勧告します。すると、兄宇迦斯は鳴鏑(音の出る矢)で八咫烏を追い返して、命に敵対する意思を明確にしました。しかし軍勢が集まらなかったので、偽って命に降伏して、家に引き入れて罠で殺そうとしました。しかし、大久米命の機転によって神倭伊波礼毗古命は助かり、兄宇迦斯は自分が仕掛けた罠にかかって死にました。
弟宇迦斯は命に降伏して、様々なご馳走でもてなしました。
1)ウカシ
古事記では、兄宇迦斯・弟宇迦斯は宇陀の豪族の祖先神とされています。彼らはウカシなるものを神格化した神様ですが、ウカシとは何でしょうか?
日本書紀には猾(うかし)と書いてあり、ずるがしこいを連想する言葉ではないかと言われています。
検索すればすぐにわかることですが、ウカシとは刺網漁で漁網を浮かせるための浮き子のことです。必ず漁網を沈めるための沈子という錘とセットで使われます。漁業就業者確保育成センターにわかりやすい図面があるのでご覧ください。アバとも呼ばれます。
これまで見てきたように、天津神を信仰する人たちは海の民で、天津神神話には漁業が何度もモチーフとして登場します。神武東征でも簗漁が登場します。ですから、この兄宇迦斯・弟宇迦斯のウカシとは刺網漁の浮き子と沈子を表しているとみなすべきです。
刺網のウカシは必ずセットです。だから兄弟です。おそらく兄が沈子なので、命と衝突して潰れて圧死してしまいます。弟は浮き子なので命に従いました。
2)鷲座・矢座・白鳥座
では、秋の星座にウカシを表す星座があるのでしょうか。あります。天の川に浸る鷲座と白鳥座です。
鷲座・矢座・白鳥座と天の川
山羊座の上には天の川があり、鷲座と白鳥座があります。鷲座と白鳥座は両方とも十字型をしていて、ひし形をイメージできます。これが兄宇迦斯・弟宇迦斯兄弟です。古代の日本人は、鷲座と白鳥座を天の川に仕掛けた刺網に見立てたのでしょう。
鷲座のすぐ上には矢座があります。小さいですが、しっかりと矢の形をしています。この矢はペガスス座の方向を向いています。兄宇迦斯が八咫烏を狙った鏑矢です。
白鳥座の付近には肉眼でもかすかに見える北アメリカ星雲と網状星雲があります。もしかしたらこれが刺網かもしれません。でも肉眼ではぼおっとした光にしか見えないので、さすがに違うかもしれません。でも偶然にしてはできすぎていますね。
3)天の川
神倭伊波礼毗古命がさかのぼった熊野川の上流部は、吉野のあたりでは天の川と言います。これは今でも残っている地名です。これも稗田阿礼が残したヒントです。
命の天球上の目的地は、邇芸速日命であるペルセウス座です。しかし黄道をいくら進んでもペルセウス座には届きません。しかし、天の川を北に進めば、ペルセウス座にぶつかります。北に進んでいるので太陽を背に受けて進むことになります。五瀬命の遺言通りです。
従来の解釈では太陽を背に受けて進むというのは、紀伊半島から大和に入り、大和盆地の東側の宇陀郡から西に向けて進軍したことを意味するとされてきました。まあそれでも良いのかもしれませんが、午後には太陽は西側にあります。命は午前中に大和盆地に攻め込んだのでしょうか?
北に向けて進むのであれば、常に太陽を背に受けて進むことになります。山羊座から天の川に入れば、終始北向きに進んで、邇芸速日命(ペルセウス座)を攻めることができるのです。とてもよくできています。
4)土蜘蛛とケフェウス座
兄宇迦斯を屈服させた命は、桜井の押坂で3人目の尻尾怪人である土蜘蛛(つちぐも)の八十建(やそたける)に出会いました。土蜘蛛は古代を題材にした漫画などで妖怪として出てくることがあります。これもまた、ペルセウス座の近くにある、焼き芋のような形をしたケフェウス座です。命は大和盆地の入り口まで到着しました。
ここで久米の子らが土蜘蛛を一網打尽に滅ぼし、磯城郡の兄師木・弟師木という豪族を倒しました。邇芸速日命は戦わずして神倭伊波礼毗古命に大和を明け渡しました。邇芸速日命の義兄の登美能那賀須泥毗古がどうなったかは、古事記には書いてありません。日本書紀では長髓彦は邇芸速日命に誅殺されたことになっています。
神倭伊波礼毗古命は、畝傍の橿原宮に入り、初代天皇となりました。
5)登美能那賀須泥毗古の弓矢と血沼海
浪速で五瀬命を殺した、登美能那賀須泥毗古の弓矢もちゃんとあります。アンドロメダ座は弓矢の形をしています。そして、矢の先にはアンドロメダ銀河があります。空気がきれいなところでは肉眼でもぼおっとした光が見えます。これが、五瀬命が傷を洗った血沼海でしょう。
長髓彦の弓矢と血沼海
6)兄師木・弟師木
古事記には、神倭伊波礼毗古命は兄師木(えしき)・弟師木(おとしき)という豪族を倒したことになっています。橿原の北にある磯城郡の豪族を討伐したという意味と言われています。
わたしは、これはカシオペア座とトカゲ座ではないかと考えています。カシオペア座はW字をした有名な星座です。その近くには小さいW字があります。馴れていない人はこれをカシオペア座と誤認することがあります。この2つのWが兄師木・弟師木でしょう。
これはおそらく敷網漁(しきあみりょう)を表しているのではないでしょうか。船と網が並ぶとW字になるからです。棒受け網漁とも言います。漁り火で魚を集めてから、火を網の側へ移動させて魚を誘導する漁で、これも古い漁法です。
神武東征の終盤。宇陀郡と磯城郡の怪物たち。
ようやく神倭伊波礼毗古命の長い旅が終わりました。古代日本人が自然を見る鋭い観察力と、それを身の回りの事物で的確に表現する豊かな想像力を持っていたことに圧倒されます。
天津神神話と星座はきれいに対応関係があります。星の形と天球上の動きが、神々の動きときれいに対応しており、天津神神話とは、星空の神話であったと言えるでしょう。
天津神神話の内容は、古事記のことなど知らなかった日本の漁師やお百姓が伝えてきた星の呼称とも対応しています。なので、私は稗田阿礼が何らかの方法で西洋の星座を知って、それに合わせて日本の神話を再編集したのではなく、日本の神話の方が現在の星座のルーツであろうと考えています。
ギリシャ神話とメソポタミア神話は星座ときれいな対応関係がありません。星座が西洋に伝わった時には、すでに西洋の神話は成立していたと考えられます。ギリシャやメソポタミアの人たちは、東洋から伝わった星座に、自分たちの神話を当てはめて解釈したのでしょう。だから合理的に解釈できない星座があったり、起源が別々の神話が同居することになったのです(例えば冬の星座はギリシャの神話なのに、秋の星座はエチオピアの神話だったりする)。
それでは次回は若御毛沼命と豊御毛沼命の正体を解明します。
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